(上野新平シリーズ)第17話:上司との再会そして…(By 源次郎)


久し振りの定時退社だった。
金曜日でもあり、飲み会に誘われる覚悟でいたが、幸いにも声を掛けてきた者がいなかった。
腕時計を見ると午後6時前だ。
この時間の電車も結構な込み具合だ。
いつもと違った雰囲気の車内だった。
毎日乗降している駅名を車内アナウンスで聞いて、上着のうちポケットに入れている定期券を触って確認した。
電車が減速し始めた時、線路から一段下を平行に続く道路に目をやった。
電車の進行方向に歩いている老紳士が見える。

(お、部長が歩いている…買い物にでも…。)

何気なく、そう思ったが、その瞬間あたまがヘンになったかと苦笑した。
その老紳士の姿は、電車が駅構内に入る直前の一瞬で、すぐに建物の影にかくれてしまったのだった。
上野新平が思い浮かべたその老紳士は、10年前に一人娘夫婦が住むサンフランシスコに引っ越していった、大池部長にソックリだったのだ。
肩を落として俯き加減に歩く姿。

(似た人もいるんだなぁ…、自分が逢いたいと思っているから、そうみえたのかもしれない。この世には似た人が3人いるともいうし…。)

改札口を出て通りを見回してみたが、老紳士の姿は無かった。
別人でもいいから、部長に似た人に会ってみたい。
出来れば挨拶くらい交わしてみたい。
どんな声をしているんだろう。
笑うと目が無くなるようにクシャクシャな顔をするんだろうか。
自宅とは反対方向に歩いてみた。

線路側の歩道を歩いていた筈だから、まだ通り過ぎていないなら会えるかもしれない。
駅前の混雑が無くなった頃、反対側の歩道に目をやった。

(あ、居た…。)

老紳士は、本屋の前で歩道にまで迫り出された台に並んでいる、雑誌を、パラパラ捲っている。
しばらく観察してみる。
雑誌を戻した老紳士は、駅の方に歩き出した。

(それにしても似ている…ちょっと老けた感じではあるが…。)

駅前を通り過ぎて、そのままあるいている。
カッターシャツの袖を2回ほど折り返し、腕の濃い毛が覗いている。
ネクタイを締め革靴を履いてトボトボ歩いて行く。
手には似つかわしくない、コンビニ袋を提げていた。
上野新平は、線路側の歩道を足早に歩き、老紳士を追い越した。

横顔も似ているが、会社に勤めていた時の黒縁眼鏡でなかった。
縁無し眼鏡のようだ。
勤めていた頃は帽子なんか被っていなかったが、この老紳士はソフトキャップを目深に被っている。
別人のようであったが、上野新平の自宅方向でもあったので横目で眺めながらあるいた。

(話しかけてみたい…。)

そう思うと、車の流れを交わして斜めに横断し老紳士が歩いてくる10メートルほど前で立ち止まって待つことにした。
ドキドキと心臓の音が、通りすぎる人に聞こえていないかと思うくらいだった。
老紳士が2メートルほど前まで近付いた時、思いきって声を掛けた。

「こんにちは、お買い物でしたか。」

人違いでしたって言い訳も考えていた。
不思議そうに立ち止まった老紳士は、自分に声を掛けられたとは思っていなかったらしく、チラっと新平に目をやって通り過ぎようとしている。

「あっ…。」
「えっ…。」
二人が目を合わせ互いに驚きの声を同時に出した。

「しん…ぺい…か?」
「部長…。」
その後、二人は見つめ合ったまま無言で立ち尽くした。
大池部長の眼鏡の奥に涙が出ていた。
次の瞬間、ポロポロと一気に流れ出した。
上野新平は、堪らず大池部長を抱きしめていた。
肩に手を回し歩き出した。
上野新平はポケットからハンカチを出して渡したが、大池部長は涙を拭こうともしない。

肩に回した手に大池部長が震えているのが伝わってくる。
定年退社される直前、奥さんを亡くされ、退職後心配した娘さんの誘いでサンフランシスコに行かれたのだったが、やはり生活様式が変わって馴染まなかったのだろう。
日本に戻ってきたことも隠していたに違いない。
いろいろ想像出来るが何も聞かないことにした。

「お住まいはちかくですか。」
落ち着きを取り戻した大池部長が、やっと喋りだした。
「ああ、7年前に戻って来た。この先の踏切を渡ったとこだ。」
「意外と近所じゃないですか、私は、踏み切りの手前を左に曲がったマンションです。」
「うん、知ってた。」
「え、どうして教えてくれなかったんですか…人が悪い。」
「すまん、面倒かけたくなかった…。」
「水くさい…面倒掛けて下さいよ。」
「うん、ありがとう。」
「今夜は、罰として私と食事を一緒に食べてもらいます。晩御飯の準備は私がします。」

「ああ…。」
「なんか迷惑ですか。」
「あ、いや…すまん。そうしてくれ。」
大池部長は、上野新平の部屋が見通せる距離にあるマンションだった。
玄関に入って、大池部長が靴を脱ごうとしてチョットよろけてしまった。
上野新平は靴を脱ぐ前だったが、大池部長の体を受け止め抱き抱えてしまった。

二人は向かい合わせに抱き合い目を合わせた。
恥ずかしそうに目を閉じた大池部長の顔に唇を近づけて言った。
「部長、もうお会いできないと諦めていました。好きでした。」
酒の力も借りずに、30年も思い焦がれた部長に告白出来た。
大池部長は、黙ったままだった。

「すみません…。」
言い終わらないうちに頬に唇をつけた。
大池部長も逃れようとしない。
上野新平に腕をまわしたまま、じっと目をとじている。
思い切って部長の固く閉じた唇に、そっと唇をつけてみた。
そのままで、それ以上は出来ない。

(ん?)

大池部長が、舌を入れて来た。目眩がするほど甘美な味がした。
「部長っ!」
一旦唇を離し、再び唇を吸いにいった。
「新平…わかっていたが、あの頃は出来なかった。すまん…。」
上野新平の目からも涙が溢れ出てとまらなかった。
絡み合う互いの舌が生き物のようにうごめき合った。
どのくらい抱きついてただろうか。
このまま時間が止まってくれたら良いんだが。

「おい、新平。」
唇を離した大池部長が、上野新平の首に腕を廻したまま言ってきた。
「はい?」
「ここはシスコじゃ無いんだ、靴は脱いでくれ。」
「え、あ、すみません。」
上野新平は土足のまま上がっていた。
慌てて靴を脱いで近くに有った雑巾で床を拭いた。

「あっははは…、もう良いから何時までやってるんだ。シャワーに入るぞ。」
「は、はい、どうぞ…。」
「ばか、一緒に入るんだ、背中くらい流してくれ。」
『背中ぐらい…』
は、大池部長の照れ隠しだったろう。

お互いの体を洗い合って、汗だくで浴室を出てきた。
「これじゃ、なんのためにシャワー浴びたのかわからんのぉー。」
「はい、かえって汗かきました。」
「わっははは…。」
結局、夕食は出前の寿司にして、ビールで乾杯した。
シャワー室で、大池部長の鳩尾(みぞおち)から臍にかけての、まだ新しいメスの後が気になり、ちんぽを尺八し合いながら聞いた。

帰国して2年目に胃癌の手術を受けたとのことだった。
胃は全摘で膵臓も摘出していた。
「術後5年経過したが、最近また通院している。」
と言っていた。
転移は認められていないが、近じか検査入院予定だとも聞いた。
「時々伺いますがいいですか。」
「おう、是非来てくれ。」
そんな挨拶をして帰ってきたのは午前0時過ぎていた。

こんなに近くに住んで居たとは驚きだったが、手が届くとこに、大池部長が住んでいたなんて偶然だろうが、神様の悪戯かもしれない。
それにしても嬉しいことだった。自宅に戻った上野新平は、思い焦がれた大池部長との絡みを思い出して眠れなかった。
念願の菊紋も、ゆっくり眺められたし、思いっきり舐めまわすことも出来た。
また、こんなにも射精時間が長く感じられたのも初めての経験に思われた。
吹き上げる精液を一生懸命に口で受けとめて、おいしそうに飲んでもらった。
大池部長の精液も量こそ少なかったが飲むことが出来た。
人生が、ここで終わってしまっても良いとさえ思った。
あの硬さだったら自分の直腸に射精してもらえそうだ。
今度は、是非挿入してもらおう。
ますます目が冴えて、勃起するちんぽを愛おしくシゴいた。

「あ、ああ、あぁー、部長…い、い、いいです…あ、あ、あ、逝きます…ぶ、部長…い、い、いいです…い、い、いきます…。あ、ああ、あああ、あぁー。」
眠れないまま朝を迎えた。こんなことだったら泊めてもらえば良かった。

流し台で水を流している音が聞こえてきた。
トントントンと快適なまな板の音も聞こえ出した。

(あ、由紀子が戻って来たのか…残業は無かったんだろうか…いや、離婚したんだった。これは、お袋の包丁さばきかも…違う…。あ、夢だ…。)
寝惚けるのは、上野新平の特技だった。

(誰か近付いて来る…逃げなくっちゃ…捉まる…。)

「あっ!」
額にキスしている。
「や、やめてくれぇー。ん?」
「新平、また寝とぼけてるな。朝飯が出来たぞ、起きらんかい。」
「わ、牛尾お爺ちゃん…、どうしたんですか。」
「また惚けてる。今日は、ドライブに行こうって先週誘ってくれたじゃろ。」
「え、あ、わ、忘れてた。すみません、すぐ起きます。」
「この野郎、御仕置だ。」

牛尾お爺ちゃんは、上野新平の上に負い被さって、唇を押し付けて来た。
両腕で抱きしめ口を吸う。
「ふんどしも付けんとスケベエなことしてたんじゃろ。」
「そ、そんなコト…。」
「ウソ言っても駄目だよぅだ。ほれ、ここが、まだ濡れている。」
そう言うと、スッポンポンの上野新平のちんぽを咥えてきた。
「あ、ああ、ごめんなさい…ゆうべ、せんずり掻きました。あ、ああ、あぁー。」
牛尾お爺ちゃんは、素早く服を脱ぎ、上野新平を腹這いにして、アヌスを舐めてくる。

「あ、ああ、やめて…、オ、オ、オイル…。」
「お仕置だから、オイル抜きじゃぁー。」
一気に挿入開始しはじめた。
「う、う、い、い、いた…。許して…。」
「もう遅い、入ってる。」
「うっわぁー、元気だなぁー。」
「当たり前じゃぁ、一週間溜めとったんじゃぁー。」
「あ、あ、あのぅ…そろそろいったら…。」
「まだ駄目だ…ふっ、ふっ、ふっ、ふっふぁぁー。」
「まだ…?。」
「いくのは、おあづけじゃぁー、飯にするぞ。」
さっさと、ちんぽを引き抜いてリビングに行ってしまった。

郊外に出て、小高い山を目指した。
眼下に博多湾が広がる所で車をとめた。

「どこだココは…。」
時々、左手で、ちんぽを擦ってやりながら登って来たので、気持ちよく
眠っていたのだろう。
「あ、寝惚けてる。困ったなぁ、ボケた爺様とじゃ面白く無い。」
「何を言うか、ボケてなんぞいない。ボケは新平の得意ワザだろ。」
車を道路から一段高い場所に移動させて駐車した。

待ちきれなかったように牛尾お爺ちゃんがキスをしてくる。
一旦降りて後部座席に乗り込む。
エンジンはかけたままでエアコンを入れて置く。

「エアコン切ってもえぇんじゃ無いか。バッテリーが挙っても知らんぞ。」
「大丈夫、その時は、後ろに積んだ発電機でかけられるから。」
キスをしながらの会話だった。
お互いの服を脱ぎ、ふんどしまで外して抱き合う。
「誰かに見られたら、どうするんじゃ。」
「見た方が恥ずかしくなって逃げるでしょう。」
「それもそうじゃのぉ、ワシだって他人がこんなコトしてたら見れんじゃろなぁー。」
「しかし、公然猥褻になるかもね。」
「知ったことか…わっははは。」
シックスナインでしゃぶり合う。

後部座席の窓とリヤウインドウは、スモークシール貼っているが、フロントガラスと前部シートの窓は貼っていない。

「わ、もうこんなに大きくして…。」
「だから一週間抜いて無いって言ったろう。」
「それにしても歳を考えてくださいよ。」
「ばぁーか、まだ66だ。これからが楽しむ歳なんじゃ。シルバーパラダイスって言うじゃろぅ、知らんのか。」
「いやはや、スケベェー爺ですね。」
「スケベェーは、お互い様じゃろ。」
「はいはい、そうでした。すみません。」
「そろそろ入れるぞ。」
「あれぇ、もうですか…もうチョットしゃぶっていたかったのに…。」
「しゃぶるんは、あとでも、ゆっくり出来るじゃろ。もう堪らん。」
「どんな体位で、やってもらえますか。」
「うるさいんだ、取り敢えず全部復習するんじゃ。」
「では、先ずは、ワンワンから入りましょう。」
「どうでもえぇから少し黙っててくれ。」

一戦終わって、再びシックスナインで絡んでいる時、人声が聞こえた。
「あら、あんなトコに車が駐車しているわ。」
「エンジン掛けているから昼寝でもしてるんだろう。」
一瞬動きを止めて、通行人の様子を伺った。
こちらに来る気配は無いようだ。
顔を見合わせて肩を竦めた。

「危なかったなぁ。」
「うん、こんなとこを歩いて通る人がいるなんて思わなかったよ。」
「お爺ちゃんがいく時の、あの声が聞こえていたら大変だったよね。」
「そんな大声出したかのぉ。」
「そりゃ、もうビックリしたよ。まるでサカリがついた野獣だった。」
「わっははは、新平の家では大声出せんからのぉ。思いっきり喚いてやったから。」
「気が狂ったかと思ったよ。」
「なに言うか、新平だって結構、大声出して喘いでいたぞ。」
「お互い様ってとこですね、はっはは。」
「そうじゃそうじゃ、偶には大声出して喘ぐのもえぇもんじゃわい。わっははは。」

帰りは、牛尾お爺ちゃんの家の近くの公園まで送って行った。
「お爺ちゃん、着きましたよ。」
「いやじゃ、まだ早いから…。」
「でも、僕の家に戻ると、また飲むんでしょう、送ってやれませんよ。」
「その時は、その時で泊まって帰る。」
「駄目ですよ、またお嫁さんに冷たく言われるんでしょう。」
「そうそう、孫の教育上だとか、夕飯が無駄になったとか言うんじゃ。」
「でしょう、だから今日は、おとなしく帰って下さい。」
「土曜日じゃからえぇじゃろ…。」
「そんな、いい歳しててダダこねたら嫌いになりますよ。」
「うん、わかった。新平に嫌われたら生きていけんからのぉー。」
「そんな大袈裟なコトでは無いと思いますが。」
「うん。お別れのキスも無しで帰るのか。」
「わかりました。」

牛尾お爺ちゃんを先に降ろして公園のトイレで待ってもらうことにした。
ワゴン車から見ていると、トイレの前でキョロキョロ付近を見回しながらトイレに入る牛尾お爺ちゃんが見えた。

(あれでは、かえって目だってしまう。どう見ても不審者だ…。)

打ち合わせたトイレのブースをノックする。
満面の笑顔のお爺ちゃんが、ふんどしまで脱いで待っていた。
「あれぇー、お別れのキッスだけって言ったようだったけど。」
「そうだ、ここにキッスするんだ。」
「んもう…、我がままなんだから。」
「いま、思い出したんだが、明日は法事で出かけるんじゃった。」
「よかったね、明日のデイト決めてなかったから。」
「うん、出かけるとき何か言われてた気がしてたんじゃ。」
「トイレに入って思い出したんですか。」
「まぁな、はっははは。」

10分余り交替で尺八しあって、やっと解放された。
上野新平は自宅に戻って、溜めてた汚れ物の洗濯が待っていた。

(あれれ、どうしたんだろう…。)

乾燥器を見ると、すでに冷たくなった洗濯物が入っていた。
牛尾お爺ちゃんがやっててくれたと解かったが、今朝は相当早くから来てくれていたんだろう。
(感謝、感謝…。)

夕飯を作り始めたころ、携帯電話の呼出しが鳴った。
見ると詩吟の今藤お爺ちゃんからだった。
「おやおや珍しい、何しているんですか。」
「野菜の配達で近くまで来ているんじゃが、寄ってもえぇか。」
「あぁー、どうぞどうぞ、晩飯の支度に取り掛かったとこでした。」

2,3分でインターホンが鳴った。
「あれぇー、1階のエレベータホールからでしたか。」
「うん、知り合いが多いから…。こっそりな。」
「そうでしょうね、ちょっとあがってお茶でも…。」
「そんな時間、無いんじゃ。これ持って来た。あまり野菜食ってないんだろ。」
玄関に立ったまま、モジモジしている。
両腕を広げて近付くと、ニコニコして唇を尖らせて待っている。
口を吸い合って、股間に手を持っていき、ちんぽを掴んで揉んでみる。
「あ、ああ、あぁー、気持ちえぇーのぉー。」
今藤お爺ちゃんは、足元に膝まずいてジッパーを降ろして、一気に尺八してくる。
暫くしゃぶって、立ち上がり、それでもチンポを握り締めたままキスをしてくる。
「また、これを入れて下さいね。」
懇願するような目で見つめている。
「えぇー、是非お願いします。」
それだけ聞くと、ダンボール箱いっぱいの野菜を置いて帰って行った。

一週間後の土曜日。

約束していた大池部長のところに行こうと朝から数回、電話を入れたが留守だった。
夜になっても電話の呼出し音だけが虚しく響くだけった。
何度か携帯電話にもかけたが電源が切られているようだ。

(どこ行かれたんだろうか、あの時は、何の予定も無いからって約束したんだったが)

ちょっと寂しくもあった。
胸騒ぎも感じたが否定した。
あんなに元気だったんだから。

ベランダから大池部長のマンションを見たが、廊下側しか見えないので、部屋に明かりが点いているかどうか解からなかった。

月曜、火曜とも電話の呼出し音しか聞けなかった。
水曜日に、早めに仕事を済ませて、駅から真っ直ぐ大池部長のマンションに向かった。
玄関ドアーにはカギが掛かっていた。

一階のエレベータホールに降りて来た時、ジロジロと伺うように見ている老人がいた。
「あのぉ、お訊ねしますが、8階の大池さんのこと知りませんか。」
老人は、上野新平の全身を舐める様にみてくる。
「セールスか?」
「いいえ、大池さんが勤めていた会社の者です。上野って言います。」
「勤めてた?あの人は、親戚も知人もいないって言ってたがのぉー。」
まだ疑っている目つきだった。
「10日ほど前の金曜日の晩に、部屋で一緒に食事したんですが…。」
「寿司屋の出前とった人か。」
「そうです。寿司膳から取りました。」
「おぉ、そうか、寿司膳が器(うつわ)下げに来たのが、土曜日の夕方だったから覚えている。」
「そうでしたか…それで大池さんは。」
「5日前じゃったか、金曜日の朝、救急車で運ばれたんじゃが…。」
「え、どちらの病院ですか。」
「Q大病院だそうじゃ。」
「それで、容態は、どうなんでしょうか。」
「今朝だったか…。」
「亡くなられたんですか…。」
「いや、亡くなってはいないが危ないって民生員がいってた。」
「民生員?」
「身寄りとか親戚が居ないから入院手続きがなんだとか…。」
「あ、有難う御座いました。」
上野新平は、自宅に戻り部屋にも入らず車を出した。
「部長っ。生きてて下さい…。」
道路の渋滞にいらいらしながら、Q大付属病院に急いだ。
涙で前方が良く見えない。
追突しそうになって急ブレーキ掛けたり、無理に割り込もうとして、タクシ-の運転手に怒られたりだった。

(落ち着かなければ…。)

『夜間受付』と赤い文字で書かれた入り口に車を止めて病室を聞いた。
受付は時間外だったからだろうか、ガードマンがいた。
『面会受付書』とかに名前を書くのももどかしく、急いで入ろうとして停められた。
「そこは駐車出来ませんから、裏の駐車場に移動して下さい。」

(急いでいるんだから、ちょっとくらい…。)

そんな我がままが通るはずは無い。ほかの人に迷惑だろうから、としかた無く駐車場に停めた。
やっと入れる…、とガードマンに会釈して急いでエレベーターに乗った。

ナースステーションには誰もいなかった。こ
こでも許可が要るからと下で教えてもらったが誰も居ないんじゃ困ったものだ。
苛々しながら、看護師が来るのを待った。

「あ、看護師さん。面会にきたんですが。」
通りかかった看護師を呼び止めて部屋を聞いた。
「大池さんは、面会謝絶になっています。」
入院患者名簿みたいな物を見ながら冷たく断られた。
「意識とかあるんでしょうか。」
「そのようなコトは、お話できませんから。」
『看護婦さぁーん』
ナースコールが鳴って看護師は、奥に行ってしまった。

その時、医者が上野新平を『じろっ』と一瞥(いちべつ)するような目でナースステーションに入っていった。
(でかい医者だなぁ、センターフォワードに使ってやろうか…。身長は180位だろうが100キロありそうだ。)
医者と看護師が、なにやら、ボソボソと話ている。

(ここまで来たのにシャクだなぁー。)

看護師と医者が、こちらを見ている。
(なんだ、こいつ等…。)
「はい、わかりました。」
そう言った看護師が上野新平の前に来た。
「大池さんの主治医が、お話したいそうです。こちらに入って下さい。」
言われるままナースステーションの奥にパーテンションで仕切られた部屋に入った。

「主治医の神埼です。こちらに…。」
袖付きの大きい椅子にドッカリ座った先程の医者が目の前に丸椅子を勧めた。
「失礼します。上野です。大池さんは、30年前に仲人してもらった勤務先の上司だった人です。」
「そうでしたか、良かった。5年前に胃癌の手術受けられたのはご存知ですね。」
「はい、10日前に10年振りにお会いして聞きました。」
「10日前ですか。」
「はい、それまでは娘さんがいらっしゃるサンフランシスコにお住まいだと思っていたんです。」
「あぁ、帰国したのを内緒にされてたんですね。」
「はい、音信不通でした。それが10日前に偶然お会いしてビックリしたんです。」
「失礼ですが…。」
医者が何かを聞こうとして口ごもった。
「・・・・・?」
「シンペイさんと言う方でしょうか。」
「え、は、はい。何か?」
「救急車で来られて、2日ほど意識不明だったんですが、その時、うわ言に言っていましたので。息子さんは、いらっしゃら無いと聞いていましたので不思議だったのです。」
「うわ言…ですか。」
顔を赤らめた上野新平を意味有り気に見ている。
「それで容態は…。」
「あ、もう大丈夫ですよ。ご安心下さい。」
「でも、面会謝絶とか聞きましたので。」
「あぁ、まだICU室ですから。」
『ほっ』とした上野新平の目が滲んできた。

落ち着きを取り戻した時、先ほどから膝に当たる医者の膝が気になってきた。
わざとらしくでも無いが、ちょっと離して見ても、すぐくっ付いて来るようだった。
終始、笑顔で話している医者が時々、上野新平と目を合わせた時、何かを探るように思えてくる。

『解かっているんだぞ、君達の、ただならぬ関係を…。』
そう言われているような後ろめたさを悟られているように感じられた。
病名は、難しくて覚えられなかったが、全摘出した胃の変わりに働いている小腸が、胃酸のような分泌液で爛れてしまい、それと癌の再発を恐れた神経性の為らしかった。

「便所で肛門から出血したのを見て、同時に吐血した模様で、意識不明のまま半日ほど倒れたままだったそうです。
発見されたのは、掃除当番だったのに見えないので、管理人の方が電気のメーターが回っているのに返事が無いと言って部屋に入られたそうです。」
医者の説明は、親切だった。

「いまは眠っていますが、ちょっとだけでしたら顔見て行きますか。」
「はい、是非お願いします。」
大池部長には、ICU室で、幾つもの点滴管や酸素吸入器などが繋がれていた。
監視室の窓ガラス越しにだったが、医者にお礼を言って病院を出た。
主治医の話では、癌の再発も無いと言うことだったので、しばらく精神的に落ち着くのを待つことにした。

老人の一人暮らしの寂しさと厳しさを知らされた。
大池部長が許してくれたら同居しても良いと思った。
いずれは自分も同じ寂しさと苦しみを背負うことだろう。

(おわり)

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(本作品は、旧「老いのときめき」に掲載されたものを、庵主さん、源次郎さん及び、新「老いのときめき」オーナーのご了解を得て、転載させて頂いたものです。)

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★「(第16話)支所で会ったお爺ちゃん」に戻る。

★上野新平シリーズ(BY源次郎)に戻る。

★「(第18話):消防署のお父さん」に進む。

カテゴリー: 上野新平シリーズ, 作者:源次郎 パーマリンク

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