シリーズお爺ちゃん(第14話):年金生活のお爺ちゃん(By爺ちゃん)


爺ちゃんは前立腺癌を患っていて、1ヶ月毎に市立病院で診察を受けている。

複数の癌が、勢力争いをしているそうで、手術は無理と宣告されていて、薬を飲まされている。

薬は市立病院の近くの所沢薬局で貰っている。

市立病院は、予約に従って診察を受けているが、毎月10日前後に診察を受けている。

その他、成人病で、血圧を下げる薬、下げる薬、糖尿病の薬を飲んでいる。

家の近くの医院で診て貰い、薬を処方して貰っている。

爺ちゃんが通っている医院は、余り流行っていないせいか、予約制はとっていない。

薬が無くなると診察を受けるが、殆ど待つことはない。待ってもせいぜい一人か二人である。

薬は医院の近くの駅前薬局で貰っている。

お爺ちゃんは一人暮らしだ。

男は好きだったが、女は好きになれなくって、独身を通してきた。

現在、市営住宅に住んでいるが、収入は年金だけである。

蓄えは殆ど無い。

職を転々と変え、個人商店や、個人経営の工場を渡り歩いたので、退職金は貰えなかった。

62歳の時に、

「悪いけど、この不況で、持ち堪えられなくなった。辞めて下さい。」

と引導を渡された。以来、仕事に就けないでいる。

爺ちゃんには相方がいた。複数のセクフレもいた。だが、現在はいない。

年金生活になって、出費を控えざるをえない状況になると、いつしか疎遠になってしまった。

相方とは、爺ちゃんの家で逢い引きをしていたが、酒や食べ物のもてなしができなくなってしまったのを苦にしだしたら、寄りつかなくなってしまった。

月に1度は駒ケンに行っていたが、交通費と入場料が重荷になってしまい、行けなくなってしまった。

所沢薬局は、市立病院の真ん前にあって、いつも賑わっている。薬剤師さんは若い女性だけだ。

てきぱきと、お客を捌いてくれるが、私的な会話は殆どしてくれない。

駅前薬局は、名前とは裏腹に裏通りにあって、医院から近いにも拘わらず、お客さんが待っていることは無い。

薬剤師は、爺ちゃんより10歳以上年上に見える白髪のでっぷりお爺ちゃんと、お爺ちゃんと同じぐらいの歳の短髪の薬剤師さんがいる。

白髪のお爺ちゃんも薬剤師らしいのだが、白衣は着ていないことが多い。

お爺ちゃんは、老け専なので、白髪のでっぷりお爺ちゃんが相手をしてくれると嬉しくなる。

短髪の薬剤師さんはパートらしく、いる時と、いない時がある。いる場合は、白髪お爺ちゃんは出てこない。

白髪お爺ちゃんは経営者のようだが、受付カウンターの後ろの小部屋で、椅子に座って居眠りをしているのが、のれん越しに見える。

今月の市立病院の予約日は10日である。

癌の薬は高い、薬局への支払いが1万3千かかる。

年金は2ヶ月毎に15日に通帳に払い込まれる。

財布の中身を調べてみると、薬代を支払いをすると、殆ど手元に残らない。

処方箋の有効期間は処方日を含めて4日間なので、10日に診察を受けると、13日までしか有効ではない。

癌の薬は切らしたくないので、予約した日に診察を受けた。

先生に、お願いして、処方箋に有効期間を延ばす旨、書いて貰おうと思ったが、薬は10日で切れてしまう。また、当面のお金が無いので、有効期間を延ばして下さいとは先生に言えないので、そのまま、処方箋を貰った。

財布の中身を再度数えてみたが、薬代は、やはり出ない。

所沢薬局の前にきたが、入る勇気が生じない。

唇を噛みしめて、やり過ごした。

駅前薬局の前にきた。

白髪のお爺ちゃんの、優しい顔が目に浮かび、フラフラと入り、処方箋を渡してしまった。

「今日は、市立病院の処方箋ですね、いつもは、別の薬局で貰っているのですよね、どうしたのですか。」

事務のおばちゃんが声をかけてくれた。

「あのう・・・」

口ごもって、声が出ない。

「年金が15日にならないと出ないので、支払いを待って頂けませんか。」

やっと言葉が出た。

おばちゃんが短髪のお爺ちゃんとヒソヒソと相談し出した。

「分かりました。今日は1週間分お渡しします。残りは、今日の分も含めた代金と引き替えでお渡しすることでいかがですか」

涙が流れてきて、短髪爺ちゃんの顔が霞んでしまった。

「有り難うございます。それで、結構です。」

そんな会話を聞きつけて、白髪爺ちゃんが出てきた。

目が、どうしたのかと質問をしている。

短髪爺ちゃんが、白髪爺ちゃんに、経緯を説明した。

「分かりました。代金は都合の良い日に持ってきて下さい。お薬は不足が出てしまうと、お体に悪いので、全部、今日お渡しします。」

白髪爺ちゃんが、ニコニコしながら言い放った。

短髪爺ちゃんは何か言いたそうだったが、何も言わず、薬をとりに調剤室に入っていった。

爺ちゃんは思わず、白髪爺ちゃんの手を両手で握ってしまった。

「有り難うございます。」

「苦しいときはお互い様ですから」

お爺ちゃんは、白髪爺ちゃんを抱きしめたかったが、やっとのことで自制した。

「不正に生活保護を受けている人が増えています。」

薬局に、白髪爺ちゃんが聞いていたラジオの声が流れていた。

終わり

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シリーズお爺ちゃん(第14話):年金生活のお爺ちゃん(By爺ちゃん) への2件のフィードバック

  1. 夢蔵 より:

    いつも読ませていただいております。有難うござます。今回は・・・涙してしまいました。
    「不正に生活保護を受けている人が増えています。」・・・本当にその通りだと思います。

    • 管理人 より:

      夢蔵さん

      「頼むから貰って下さい。」と申し上げたいような困窮生活を送っていらっしゃる一方で、何とかごまかして受給して「いる輩はぶん殴ってやりたいですね

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