上野新平シリーズ(第47話):大工のお爺ちゃん(一):By源次郎


「上野さん、それは無理ですよ。最近の大工さんも、土曜、日曜は休んでいますから、そうでないと若い人材が確保出来ませんしね。」
「そうでしょうね、でもサービス業の方は土日祭日にも働いてくれていますから、そうした大工さんを探してくださいよ。」
「たまにそんな希望も有りますが、やってくれる人が限られますからね、待たせられても良いですか。」
「今すぐ、どうなるって状態では在りませんから、暫らくだったら待たせて貰います。」
居間と食堂、それに台所の床板が、歪んでいて歩くたびにギシギシ軋むのが気になっていたので、床板の張替えを依頼していたのだが、不動産屋の大橋お爺ちゃんに探してもらうことにしていた。

「判りました、熊本建設ってのが、こまめに増改築を手がけていますので相談しておきます。」
「すみませんね、私の仕事関係の大工さんもいますが、何となく頼みずらいんです。」
「そうそう、上野さんの知り合いの大工さんが沢山いらっしゃるのではと思っていましたが、やはり頼み難いこともあるでしょうね。判るような気がしますよ。」
だいたいの希望も伝えたので、帰ってくれるかと思っていたが、なかなか腰を上げようとしてくれない。

「どうです、また例のスナックでもご一緒してくれませんか。」
ずらした鼻眼鏡の奥から見上げるように新平を見てくる。
この大橋不動産のお爺ちゃんには、先月、ここの中古住宅を買って登録手続きなどで世話になっていた。
また、大橋お爺ちゃんの行きつけの会員制スナックにも誘われ、その帰りの公園のトイレで尺八してもらっていた。

別にタイプが、どうだこうだって事は無かったが今夜は疲れてもいて、そんな気持ちにはなれなかった。
「ああ、あのスナックですね。その節はご馳走様でした、初めてでも会ったし、なかなか楽しいところでしたね。」
「でしょう、マスターも『ウーさんはどうしたの』って行くたびに聞かれています。」
「そうですか、宜しく伝えてて下さい。仕事がゆっくりなったら是非お供させて貰いますから。」
「嬉しいなぁ、約束ですよ。」
目を輝かせて微笑んでいる。
「はい、判りました。お茶のお替りでも入れましょう。お酒は駄目でしょうから。」

「ああ、最近は飲酒運転が特に取締りが厳しくなりました。あ、良かったら、もう一杯お茶を頂いて帰りましょう。」
「まだ良いでしょう。私の方は食事の準備をしますが。」
「まあ、夕食はまだだったんですか、とっくに会社の帰り道で済まされていると思っていました。」
「たまには、手抜きで外食しますが、殆ど家で食べるようにしないと経済的にも大変ですから。」
「そんな、上野さんみたいな高給取りの方が…。」
「そんなに見えますか。あっはっはっ、外見だけで経済的には結構大変なんですよ。」
茶の葉を新しく取り替えて、急須に湯を注いで大橋お爺ちゃんに差し出した。

「あ、いただきます。上野さんは、上等の茶の葉をお使いだから、美味しいですね。」
「そんな高い茶の葉は買えませんが、お隣さんが時々来て、お茶を飲まれるんですが、以前買ってた茶の葉が『不味い』って言われまして、それから変えました。」
「いやぁ、ホント良いお茶です。」

そんな会話の途中で、勝手口から、善吉お爺ちゃんが入って来た。
「上野さん、お帰り。これ作ったから食べてみてくれ。まあまあの出来具合だった。もう数日したら、もっと酢が馴染んで来るんじゃがな。」
「あ、福島さん今晩は、何時も有難う御座います。今度は何でしょうか。」
「あれ、お客さんだったか邪魔してしまったな。」
とっくに気付いていたはずだが、驚いたように恐縮した顔をしている。
善吉お爺ちゃんが、客が来ていると知らなかったら『上野さん』なんて言って来る筈が無いからだ。

「私でしたら、すぐに失礼しますから…。」
大橋お爺ちゃんが椅子から立ち上がって、バックを手にしている。
「いやいや、ワシの用事は済んだから・・・。」
善吉お爺ちゃんは、そう言いながらも持参した生姜を薄く切って甘酢に浸けた『ガリ』を台所から勝手に持って来た小皿に取り出して味見させる。
「わ、これは美味しい。最近はあまり行っていないんだけど、お寿司屋に行ったら必ず他所の店と比べたりするんですよ。大好きなんです。」
「去年のより出来がよかったんでな。」
すっかり、二人だけの会話になっていた。

「あのぉ、上野さん。早速明日にでも手配しておきますから、今夜は、コレで失礼します。」
玄関に降りて靴を履きながら大橋お爺ちゃんが声を掛けてきた。
「あら、大橋さん、すみません。宜しくお願いします。」
大橋不動産の車が発車するエンジン音を確認した後、新平と善吉お爺ちゃんは顔を見合わせて笑ってしまった。

「悪いお爺ちゃんだ。お客さんを追い返しに着たんでしょう。」
「新平が帰宅してすぐ来たようだったので腹すかして困っているんじゃないかと思ってな。」
「大事な話だったんですよ。お爺ちゃん、お仕置きです。」
「うん、どんなお仕置きかな。うふふ…。」
「ご期待通りのお仕置きです。」
善吉お爺ちゃんを抱き寄せて唇を合わせる。

「うぐうぐ、こんな、あ、ああ、お仕置きは毎日して貰いたいなぁ。」
「ったく、迷惑なんだから。」
「そうでも無いって顔してたじゃないか。」
「あははっ、お察しでしたか。参ったな。」
「今度は、お仕置きのオツリだ。」
善吉お爺ちゃんが、新平の股間に手を持ってきてジッパーを下げようとしている。
「あ、待って、オツリなんて要らないですから。それに、お仕置きはまだ済んでいません。」
「なに、まだ他に押し置きが残っていたのか…。あ、ああ、止めてくれ。な、な、頼むから、あ、ああ。」
新平が素早く善吉お爺ちゃんのジッパーを引きおろし、ぐんにゃりしたチンポを掴んで引っ張り出す。
「ま、ま、待ってくれ、2・3日風邪気味でな、あ、ああ、風呂にあ、ああ、よせ、な、ああ、あふっ。」
善吉お爺ちゃんのチンポは確かに、酸っぱいような汗の臭いと、アンモニアの饐(す)えた鼻を突く匂いだった。
雁を指で抓むようにして、新平の鼻の下から口の周辺に押し当てて匂いを塗りつける。
頬擦りした後、口に咥え、綺麗に舌で転がして洗ってやる。
「こら、バカ…。恥かかせて、あ、ああ、恥ずかしい。汚いから止せって、な、な、あ、ああ、あああ。」

「お爺ちゃん、おいしかったよ。」
チンポを解放して立ち上がり唇を重ねる。
「臭かったろ。」
「うん、でも、お爺ちゃんのだから美味しかったよ。」
「晩飯は今から準備するのか。」
「うん、腹減った。今夜は、レトルトで…。」
「新平、片手落ちだろ。」
「え、何が…。あ、ああ、止めて、ね、ね、あ、ああ、あう・・・。」
ちょっと油断したのがマズかった。善吉お爺ちゃんに後ろから捕まえられ、
背中に抱きつかれたままズボンのベルトを外され引き降ろされてしまった。
「ね、待ってよ。風呂にも入りたいし、あ、あへ、あへ、ああ。」
突然の報復だった。人格の無い新平のチンポは、口に咥えられた時は、すでに完全に勃起してしまっていた。

「ね、ね、お爺ちゃん。ちょっとだけだよ。あ、ああ、駄目だって、あふ、あふ…。」
黙々と尺八してくれる善吉お爺ちゃんの頭を掴んで腰を前後させてしまう。
「止めてって言ってるでしょう。あ、ああ、駄目、手で扱いたら射ってしまうでしょう。あ、ああ、あ、ああ…。」
崩れるように床に寝転んでしまった。

「あ、ああ、あん、あん、射、射くっ…。」
堪らず足を突っ張り腰を持ち上げて精を噴出してしまった。
立ち上がって、お爺ちゃんを見ると『にっ』と笑っている。
その口の横から飲み込み損ねた新平の精液が垂れている。
「ああ、うまかった。久し振りだったな。あっはははっ。」
満足顔の善吉お爺ちゃんを、しっかり抱きしめて、お休みのキスをして別れた。

今年は『カラ梅雨』とか聞いていたが、昼過ぎから降り出した雨が夕方になってもシトシト降り続いている。

自宅近くに来たところで、自宅の玄関前にエンジン掛けたままの軽トラックが停まっていた。
『迷惑だな、それともお客だろうか』
運転席の方に回って、フロントガラス越しに中を覗き込んでみた。
中には、70前後のお爺ちゃんが座席に座ったまま居眠りしている。
白髪混じりの短髪で丸っこい顔した眉の長い可愛いお爺ちゃんだ。

新平に気が付いていないようで、ぐっすり眠っているようだ。
玄関に入るのに邪魔になる所でも無かったので、そのままにして鍵を開けて家に入り、寝室に入り、服を脱いでジャージに着替えている時、玄関のチャイムが鳴った。

「はーい、開いていますからどうぞ。」
玄関に入って来た客は、先程の軽トラックで寝ていたお爺ちゃんだった。
「あら、おたくでしたか、よく眠られていたようでしたので…。」
「え、見られていたんですか。恥ずかしい、今晩は。大工の朝倉です。」
「は、朝倉さん。どちらの…。」
「熊本建設です。」
「そうでした、そんな名前の建設屋さんって聞いていましたが、見積もりにでも来てもらったんですか。」

「はい、ちょっと改修される場所と面積、それに床下の状況を見せてもらおうと待っていました。」
「それは、すみません。お待たせしてしまって。」
「いいえ、会社には連絡しててくれって言っていたんですが、事務員が忘れていたらしく帰宅してて、連絡取れなかったので勝手に待たせてもらいました。」
「そうでしたか、どうぞ上がって下さい。」
「はい、お邪魔します。私が携帯に気付かなかったのかもしれないんです。」
「私も、お宅の会社から連絡受けていませんので、何か行き違いがあったんでしょう。」
「えっと、居間と食堂と台所の床張替えでしたね。」
「そうです、一部ギシギシ軋むんで気になって、お願いしました。」
「まだ床板は、さほど傷んでいませんが、剥がれたりしたところも在りますね。軋むのは床下の根太が折れているか割れているんでしょう。」
「ああ、やっぱそうでしたか。根太の補強くらいで済みますか。」
「大丈夫だと思いますが、ちょっと床下を覗いてみましょう。」
「流し台の前にだけしか点検口が無いんですが。」
「見えるところだけでも見ておきましょう。」
大工のお爺ちゃんは、懐中電灯を持って、床下点検口に頭と両手を入れ、逞しい上半身とモッコリした尻だけを見せている。

腰のベルトには薄汚れたタオルを挟んでいる。今日一日の汗が染み込んでいるのだろう。
方向を変えながら身体を動かすたびに尻が淫猥に左右上下に揺れる。
『色気があるなぁ』
新平は、生唾を呑み込みながら、大工のお爺ちゃんの尻から目が離せない。
帰宅した時、食卓に置いていた携帯電話を取り上げ2枚ほどシャッターを押してしまう。

「・・・・・。」
「はぁ? 何でしょうか。」
お爺ちゃんが何か言ってるのだが聞き取れない。近付いて行って尻の傍まで行って聞き直した。
目の前の、お爺ちゃんの尻を手で撫で回したい衝動に駆られる。ここまで近付くと我慢出来なくなる。
直接、尻を触るわけにもいかない。
近付いたことを知らせる意味で、そっと、お爺ちゃんの腰に手を触れさせてみた。
「奥の方は、床板を剥がしてからでないと判りませんが、おそらく補強だけで大丈夫でしょう。」
「そうですか。安く上がるようですね、安心しました。」
その時、お爺ちゃんが身体を床下から出ようと起き上がる時、点検口で、したたかに後頭部をぶっつけてしまった。

『ゴツ!』
「あ、痛い。」
「おっと、大丈夫ですか。」
お爺ちゃんの背中を抱くようにして起き上がらせてやる。
「はっはははっ、参ったな、こんなドジナトコ見せてしまった。」
立ち上がったお爺ちゃんは、臍の下に絞めたズボンのベルトを引き上げている。
しっかり股間の左のモッコリが浮き出て見える。
しかし、そのベルトも、すぐにずり落ちて臍の下に収まってしまった。

大工の朝倉お爺ちゃんが改修する床面積を巻尺で計っている間、新平は夕食の支度に取り掛かった。
『ぺたぺた、ぺた、ぺたぺた…』
あちこちを、幅広い素足で歩き回っている足音が可愛く聞こえてくる。
「朝倉さん、夕食を一緒に如何ですか。」
新平には、この朝倉お爺ちゃんが、少しでも長く居て欲しく、また出来ることなら誘惑してみたい気持ちだった。
「え、ああ、美味しそうな晩ご飯が出来ているようですね。」
「美味しいかどうかは自信ありませんが、沢山作りましたからどうですか。」
「有難う御座います。家に帰って、ひと風呂浴びた後、一杯やりながら、婆さんと夕食しますから。」
「そうですか、奥さんがお待ちになっていらっしゃるんだったら、お引き止め出来ないですね。」
「上野さんは、お一人住まいでしたか。」
「ええ、バツイチの一人暮らしです。」
「ああ、それで、勤務があるんで土曜日曜日にって頼まれていたんですね。」
「そうなんです。出来たら、土日耀にしていただけたら助かりますが。駄目だったら、お留守番を、お隣の福島さんにお願いしようと思っています。」
「3・4日掛かりますが。」
「そうですか、土日を含んでいただけますでしょうか。」
「はい、それは考えておきます。そうでしたか、お一人住まいで、何かとご不便でしょう。」
「はははっ、もう慣れました。自業自得だし。」

朝倉お爺ちゃんは、新平が一人暮らしと知って、作業しながらも時々新平の方に目をやってるようで、新平自信、何やら胸騒ぎすら感じた。
「上野さん、一応面積などが確認出来ましたので、これを事務所に渡しておきます。後日、会社から見積書が送られるでしょうから宜しく。」
「ご苦労様でした、お茶も出していなくって失礼しました。ちょっと、お座りになって下さい。」
「それは、有難う御座います。遠慮なく一杯頂いて帰ります。」
「こちらえどうぞ。」
「あ、その前にトイレを貸してください。手も洗いたいので。」
「そうでした、洗面所は此方らです。隣がトイレですから。」
『ちょろちょろ、じゃぼじゃぼ、ぶっ、ぶっぶぅ』
朝倉お爺ちゃんのションベンの音が聞こえる。どんなチンポを握ってしているんだろうか。
『おや、屁をふってる。可愛い音だ、どんな菊座から出ているんだろう』
新平は耳ダンボー状態で、トイレの音を心地よく興奮しながら聞いていた。

腰に下げていた汗臭そうな変色したタオルで手を拭きながら、ニコニコして出て来たお爺ちゃんを新平の前の椅子に手を取って座らせる。
「綺麗に掃除されてて気持ち良いトイレでしたよ。」
「そんな、滅多に掃除なんてしていないんですよ。」
「いいえ、家庭のトイレを見ただけで、大方のことが判りますから。」
「そうですか、参ったな。明日っから、もっと丁寧に掃除するように心がけます。」
「失礼しました、余計なこと言ってしまって。本当は、飾られてた綺麗なバラのことを言いたかったんですわ。」
「はははっ、バラですか。あれは、お隣さんからの差し入れで、自分が咲かせたんじゃ無いんです。」
「丹精込めて咲かせられたんでしょうね。」

「ところで、工事の方は朝倉さんがやっていただけるんでしょうか。」
「それは判りません。私は、友達と親戚の若い子の三人で細々とやってて、熊本建設の社員では無いんです。」
「そうでしたか、でも出来たら朝倉さんにお願いしたいですね。」
「有難う御座います。会社にも一応希望として頼んでおきます。私も上野さんと、もっとお会いしたいですから。」
帰り際に携帯電話の番号を交換してもらった。
「工事見積もりが出来て施工に入られる前に、連絡してください。」
「はい、事務所にも教えておきます。」
何んとも意味深な嬉しい言葉を残して、10分ほど喋って、大工の朝倉お爺ちゃんは帰って行った。

『もっとお会いしたいですから…』
朝倉お爺ちゃんが帰り際に残した言葉が、何時までも心地よく、また、床下から引き起こしたときの腰回りの体温が思い出される。

夕食を済ませて、シャワーを浴びようと洗濯機に下着を投げ入れようとして、何か異変を感じた。
『何だろう、何かが違う』
洗濯機を覗き込んで暫らく考えて気が付いた。
新平は、脱いだ褌を四つ折くらいにして、紐をクルクルと巻きつけて放り込むのだが、昨夜、入れた褌の紐が巻かれていない。
解けた褌の紐が何時もと違っている。一人暮らしの新平にしたら、その紐を解いたのは、朝倉お爺ちゃんしか考えられない。
トイレに入るときにでも、洗濯機を覗いて取り出し匂いを嗅いだのではないだろうか

『きっと、そうだ』
嬉しくなって、その褌を取り出し、こんな具合に嗅いだのではと、自分の褌を鼻先に押し当てて苦笑する。
風呂上りに早速、携帯電話からSDカードを取り出しプリントアウトする。
残念なことに画素数が少ないので大きく引き伸ばせない。
それでも、朝倉お爺ちゃんのデカシリを愛おしく眺められた。
布団に入っても、朝倉お爺ちゃんのニコニコ笑った顔が目に浮かび、お尻の写真を眺めながらオカズにして、久し振りに、せんずり掻いてしまった。

数日して見積もりが届けられ早速契約して施工してもらったが、希望した朝倉お爺ちゃんには来てもらえなかった。
朝倉お爺ちゃんとは別のグループで、施工されたが、4人もの大工さんが入ってくれて三日間で済ませてくれた。
予定外の床下解体もあって、当初の見積もりより費用が掛かったが丁寧な仕上げで満足だった。

朝倉お爺ちゃんのグループは、別の改修工事で来れないとのことで残念で仕方なかったが、どうにかして逢えないだろうかと口実を考えては見たが、あまりにも幼稚な気がして諦めてしまう。
せめて完了立会いにでもと期待したが、それも駄目だった。

午後の事務所内では、時々静まり返るときがある。会話も無く電話の音も無い
『カチャカチャ、カチャ…』
と無機質なキーボードの音だけが響くときだ。
リズム良く聞こえてくると眠気さえ覚えてくる。
こんな時は喫茶店に逃げ込んでサボリたいのだけど、何か口実がないと席を空けられない。
誰かが咎める訳ではないのだが、何となく後ろめたいのだ。

『ブルブル、ブルブル』
作業服のポケットで携帯電話の着信バイブが震えた。
「はい、上野です。は? ちょっと聞こえ難いのですが…」
『朝倉です、大工の朝倉です。上野さんですか。』
何と、思い焦がれて夢にまで出て来た、朝倉お爺ちゃんの声だ。
「あ、朝倉さん。」
思わず大声を出してしまい、数人が迷惑そうに新平を振り返って見て来る。
慌てて、事務室を出て廊下をトイレのほうに歩きながら朝倉お爺ちゃんのこえを聞く。
「そうです、近くですが、私がそちらに行きますから10分くらい待っていて下さい。」
予期しなかった朝倉お爺ちゃんからの呼び出しだ。そのままエレベーターに乗って一階に降りて玄関ロビーの受付から工務かに電話を入れる。

「あ、横ちゃん、急用で外出するから何かあったら携帯にね。」
と伝えてタクシーに飛び乗った。
車は5分余りで、朝倉お爺ちゃんを待たせたコンビニの前に到着した。

「お久し振りです。お待たせしました。」
「いやぁ、急に呼び出してご迷惑ではなかったでしょうか。」
恐縮した朝倉お爺ちゃんが、ニコニコしながら新平が降りるタクシーに駆け寄ってきた。

「迷惑だなんて、嬉しくって。忘れられてなくって…、有難う御座います。」
10年振りに再会した友人のように、思わず両手を掴んで懐かしそうに硬い握手を交わした。
「ちょっと仕事の手が空きましたので社会保険事務所に出て来たんです。
この近くじゃなかったかなぁと、お声が聞きたくなりましてね、電話させてもらったんです。」
「そうでしたか、取り敢えず、どこか喫茶店に入りましょう。」
近くの喫茶店に入って、コーヒーを頼み、改修工事が無事に完了したことと、お礼を言って、再会したかったことを重ねて打ち明ける。
コーヒーとクラッカーが運ばれて来たが、興奮した気持ちがスプーに伝わり
『カチャカチャ』
音をたててしまう。

朝倉お爺ちゃんはニコニコ微笑んで優しく新平の顔を見ているだけだ。
この可愛いお爺ちゃんが、何を考えているのか、新平も微笑み返すしかなかった。
カップを、可愛いおちょぼ口に運んで一口飲んで皿に戻し、また新平を見てくる。
『何だろう…』
話が進まない苛立ちさえ覚えてくる。
目の前の、お爺ちゃんが本当に洗濯機に丸めて脱ぎ捨てた新平の褌を取り出して匂いを嗅いだのだろうか。
新平は、自分が都合よく解釈して、そんな思い出見ているのではないかと不安にさえ思えてくる。

そんな時
『ふっ』
と、頭に浮かんだ。
『何故だろう』
もし、お爺ちゃんが、こっそり新平の褌を嗅いだとしても、仕舞う時は、バレ無い様に元のままにして、そっと置いておくのではないだろうか。
あれが
『見たよ、嗅がせてもらったよ』
とのメッセージだったとしたら納得がいく話である。
『そうなんだ、きっとそうなんだ』
新平は、自分の都合が良いように解釈してしまっているのかもしれない。
『ここは、一か八かの勝負だ』
思い切って話をしてみよう。それが通じなかったとしても、それはそれで後悔しなくて済むだろう。

相変わらずニコニコ微笑んでいる、朝倉お爺ちゃんを見て大きく深呼吸した。

「朝倉さん、メッセージ有難う御座いました。嬉しかったですよ。」
『ああ、とうとうワケワカなことを喋ってしまった』
これが通じないんだったら新平の一方的な片思いでしかなかったのだ。
朝倉お爺ちゃんの目を見つめて返事を待った。
お爺ちゃんが口を開くまでの時間が僅か数秒だったのだろうが何時間にも思えた。
「ああ、有難う。気付いてくれましたか、嬉しいな。」
新平としては、諦めにも似た告白だったが、万分の一にもの淡い期待が100パーセント通じてしまったのだ。

嬉しくて椅子を立って抱きしめに行きたい気持ちだった。
「朝倉さん…。」
新平の声が震えて後の言葉が出て来ない。
「上野さん。電話待っていたんですよ。」
「私も、何か用事を作って連絡したかったんですが、朝倉さんのメッセージに気付いたのは、たった今だったんです。」
「そうでしたか。」
「すみません、鈍感だもんで。でも思い続けていました。」
「そう、有難う。なかなか爺から言い出せませんので。又こんな草臥れた爺の相手をしてくださいともいえなくてね。」
「そんなこと有りませんよ。まだまだ溌剌(はつらつ)としてて、お若いはないですか。」
「はははっ、溌剌はどうでしょうね。でも持病といったら時々腰痛があるくらいですが。」
「仕事上重い荷物が毎日でしょうから大変でしょうね。温泉に行ってマッサージしてあげたいですね。」
「それは助かります。楽しみだな、早いうちに誘って下さい。」
「私は何時だって結構です。朝倉さんに合わせますから是非電話してください、お願いします。」
「有難う。お願いするのは私の方ですから、早速お願いします。」
『大願成就(たいがんじょうじゅ)』
って、こんなことを言うのだろうか、新平の淡い片思いが相思相愛の形で叶えられるのだ。

その日のうちに、朝倉お爺ちゃんから電話があって、隣の市に最近オープンした健康ランドに一泊することになった。
約束した来週の火曜日まで一週間もある。どうやって過ごそうかと浮き足立った気持ちが落ち着かない。
早速、年次有給休暇届けを庶務課に提出した。
最近では、土日耀の連休があるので、なかなか消化出来なかった有給休暇だ。
現場の施工管理は、それぞれ副主任が常駐しているので数日顔を出さなくても大丈夫だ。

約束した火曜日の朝、コーヒーを沸かしてパンを焼いているとき、隣の善吉お爺ちゃんが勝手口から入って来た。
「何だ、新平。遅い朝飯だな。会社は休むのか。」
「お爺ちゃん、おはよう。洗濯や掃除を先に済ませていたんで、今から朝食です。コーヒーはどうですか。」
「そうだな、たまにはコーヒー飲ませてもらおうか。」
善吉お爺ちゃんは、新平の前に座って、顔を見つめてくる。
「あれ、どうしたんですか。朝の挨拶は。」
新平が、椅子を立ってお爺ちゃんに近付き両手を広げ抱きついて唇を重ねに行く。

「う、うう…。」
善吉お爺ちゃんも、新平を抱き返し舌を絡ませてくる。
「何処か出かけるのか。」
勘の良い善吉お爺ちゃんだ。
新平が出かけるのを気付いている。
「ああ、久し振りに有給休暇が取れたので大学の友達を訪ねて見ようと思ってね。はい、コーヒーどうぞ。」
「うん、有難う。それで今夜は、その友達のとこに泊まるのか。」
「うん、滅多に会えないから、酒でも飲もうって思ってね。」
「そうか、気を付けてな。」
どことなく悲しそうな顔で見てくる。

「うん、有難う。明日は昼過ぎには帰れると思います。」
お爺ちゃんにウソをつくのは心苦しいが、本当のことを言うともっと悲しむだろう。

新平の素振りで判るんだろうか、肩を落とすようにして帰って行った。
『お爺ちゃん、ゴメンね』
心の中で呟いて謝った。
午後2時、待ち合わせた駅前の広場に車を入れようとしていたら、リュックを背負った朝倉お爺ちゃんが手を振って走ってきた。
「おはよう御座います。早めに来たつもりでしたが、お待ちになってたんですか。」
「はははっ、一つ前の電車に間に合ってな、よいしょっと。お世話になります。」
朝倉お爺ちゃんは、車に乗り込んでリュックを後部座席に置いた。
「良い天気になりましたね。ぼちぼち出かけましょうか。」
「うん、安全運転でな。」
朝倉お爺ちゃんは、そう言いながらも、新平の左膝に手を乗せてくる。

「はい、安全運転が取り得みたいなものですから。」
赤信号で停車したとき顔を見合わせて笑い合う。
信号が変わる前に、朝倉お爺ちゃんの手を新平の股間に持ってきて触らせた。
「お、もうデカくしてる。」
嬉しそうに、何度も新平の股間を上下に擦っている。
「あ、発車しますから…。」
車は健康ランドに向けて走り出した。
「部屋の予約は宿泊で取れたのですか。」
「うん、何でもオープンしたばかりで多いらしかったが予約できたよ。」
「それは良かった。今夜は寝させませんからね。」
「そう、楽しみだな。あっははははっ。」
此の後、健康ランドでは、新平にとっては信じられない事件が待っていた。

(つづく)

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(本作品は、旧「老いのときめき」に掲載されたものを、庵主さん、源次郎さん及び、新「老いのときめき」オーナーのご了解を得て、転載させて頂いたものです。)

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