上野新平シリーズ(第62話):家庭菜園のお爺ちゃん(12)By源次郎


(1)

「お爺ちゃん、善吉お爺ちゃん、どうしてこんなに早く逝ってしまったんですか。つい先程、玄関前で会った時まで元気な顔して笑ってくれてたでしょう。」

斎場の祭壇に置かれた善吉お爺ちゃんの遺影が、ニッコリ笑いかけてくる。

「まだまだ、二人で楽しいことを沢山しましょおって約束していたでしょう。忘れたんですか。」

祭壇の横の親族席には、喪服姿の善吉お爺ちゃんの奥さんや、初めてお会いする娘さんや、お孫さん達も、一様に目を泣き腫らして新平を見て来る。

「隣に住んでいただけです。優しくして貰ってただけです。本当です。お父さんのようにさえ思っていました。」

誰も問い詰めるわけではなかったが、心の中で叫んでいた。

奥さんや親族の方達の厳しく見つめてくる目を避けるように、再び遺影に手を合わせる。

「でも、お爺ちゃん。楽しいことも、いっぱい一緒にやってくれたよね。有難う。西方浄土で待っててね、淋しくなったら何時でもいいから化けて出て来てね。その時は夜も寝せないから覚悟して来るんだよ。」

自治会の決算書を徹夜で作成したこと、陶器市に出かけながら途中で温泉に行ったこと、浴室で絡んだこと、モーテルに行ったこと等々、思い出して来る。

「それにしても、お爺ちゃん。新平を残して逝ったんですか。どう考えても早すぎです。もう一度生き返って来て下さい。このままでは、私も生活のハリが失われます。お願いだから、起きて下さい。」

止め処も無く溢れる涙を拭こうともせずに、微笑み掛けている善吉お爺ちゃんの遺影を見る。

何時撮影していたんだろうか、父の日に新平がデパートに連れて行ってプレゼントしてやった、明るいアイボリー色のポロシャツのボタンの一番上までを止めて首が窮屈そう。

一番のお気に入りで、ここ何週間も着ていたポロシャツだ。

胸ポケットには、特別に注文して、真っ赤な糸で、善吉の『Z』のデザイン文字を刺繍して入れてもらっていた。

出逢いには、必ず別れがある。判ってはいるけど、あまりにも唐突だ。悲し過ぎる。

涙で、遺影がボンヤリと霞んでくる。溢れ出る涙と鼻水を拭おうともせず、お爺ちゃんとの思い出に浸る。

涙をぬぐって再び遺影を見ようとしたが、霞んだ目の前が次第に晴れて、お爺ちゃんの後姿が見えてきた。

「あ、お爺ちゃん、後姿なんか見せて、まだ逝かないで。せめてキスくらいさせてよ。ね、ね、お願いだから、人に見られていても構わないから、お爺ちゃん、もう暫らく逝かないで下さい。」

幻覚だろうか、善吉お爺ちゃんが流し台に向かって『シャカッ、シャカッ』と魚をおろしてくれている。

ああ、そうだった。時々友達の魚屋さんから、イキの良いのを買って来て刺身にしたり煮付けてくれたりしていた。

その後姿を見せてくれているんだ。幻覚でも良い、こうして善吉お爺ちゃんと過ごしていたんだ。

お爺ちゃんが、新平に最後の別れとして懐かしい姿を見せに出て来てくれている。

「おい、新平。そろそろ起きて着替えでもして来い。」

何だ、こんな悲しいときに、普段の姿を思い出させようとしてくれている。

『ああ、お爺ちゃん。有難う。すっかり引き留めてしまったね。私のことは心配要らないから、成仏して極楽で待っててね。』

「なにブツブツ言ってんだ、起きれって言ってるだろ、聞こえないのか。疲れているんだな。」

『お爺ちゃん大丈夫だから…』

「変だな、なに喋っているんだ。寝とぼけているのか。あれ、新平。鼻水流し、泣いたりしてどうしたんだ。顔色が悪いぞ、風邪でも引いてしまったか。」

『風邪なんかじゃ無いよ、大丈夫だって言ってるでしょう』

「どれ、顔を見せてみろ。あ、凄い熱だ。ちょっと待ってろ、布団敷いてくるから。動くんじゃないぞ、椅子から落ちたら大変だからな。」

なに心配してくれているのか、あたふたと新平の寝室に駆け込んだようだ。

『駆け込んだ?』

なんだろう、これって幻覚じゃ無いのだろうか、いや幻覚でもいいから醒めたくない。

食卓に腕を組んで顔を伏せた状態で、背後のお爺ちゃんの動きが気になって来た。斎場に居たんだが、どうやって帰って来たんだろう。

「おい、新平。布団敷いたから向うに行こう。どれ立てるか。」

お爺ちゃんに抱きかかえられるようにして立ち上がり、肩を抱かれたまま寝室の布団に寝かされた。

「どうしたんだ、どれ服を脱がすから。よいしょっと、重いなぁ。」

服を脱がされ、パジャマを着せられ、掛け布団を掛けてもらう。

亡くなってからも新平のことを思って面倒見てくれているんだ。このまま甘えていたい。

「凄い熱だな。風邪だと思うが、取り敢えず熱を下げないと駄目だな。おい、新平。解熱剤とか体温計とか持っていないのか。」

「そんな物持っていないよ。」

「喋れるんじゃないか、氷枕とか・・・持っていないだろうな。ちょっと待ってろ、家に戻って持ってくるから。すぐ来るからな心配しないで寝てろ。」

『ペタペタ、ペタペタ』

居間を小走りで走り勝手口を開けて出て行ったようだ。

そこまでは、何となく記憶にあるようだったが、段々気持ち良くなって眠ったのか、気を失ったのかボンヤリとしか覚えていない。

ドコからドコまでが夢だったんだろう。善吉お爺ちゃんは死んでなんかいなかったんだ。でも、これが現実だとしたら、この身体のダルさは、風邪だったんだろうか。

どの位経ったのか、目の前がボンヤリ見えてくる。あの身体のダルさはドコに行ったのだろう。

『あれ、氷枕をしている、それに、額には濡れたタオルが乗せてある』

体中が汗に濡れて気持ち悪い。額に乗せられていたタオルを取って、天井をはっきり見てみた。

枕元で、誰かの寝息が聞こえてくる。

見ると、両膝を曲げ座布団を枕にし、横向きでまるまっている善吉お爺ちゃんが転寝(うたたね)している。

『あ、お爺ちゃんだ。寝ないで看病してくれていたんだ』

新平は、布団を跳ね除け、よろけながら転寝している善吉お爺ちゃんに飛び掛って行って抱き締めた。

「お爺ちゃん、有難う。こんな格好で転寝していると風邪引くでしょう。」

「わ、吃驚した。新平、熱は下がったのか。」

「うん、有難う。お爺ちゃん……。」

「なんだ新平。泣くことは無いだろう。」

「だって、お爺ちゃんの遺影が斎場に……。」

「ありゃ、変な寝言なんか言って、まだ熱があるんだ。心配しないで、もうすこし寝てろ。それにワシを殺したりしないでくれ。」

「ああ、お爺ちゃん。もっともっと元気でいてよね。」

「うん、判ったから寝てろ。ん? 汗かいたようだな、いま拭いてやるからパジャマ脱いでまってろ。」

布団に素っ裸で転がされ、うつ伏せの新平の背中から尻、足先までを湯で湿らせたタオルで拭いてくれる。

「新平、上向きになれ。」

「ちょっと恥ずかしいよ。」

「なに贅沢なこと言っているんだ。病人だろ、医者の言うとおりにしないと注射するぞ。」

「ああ、そのデカイ注射をお願いします。」

「あっはははっ、それだけ冗談が言えれば大丈夫だ。おや、このムスコは親が病気だってのに、人格がないのか。嫌らしく膨らんで来たぞ。」

「だから恥ずかしいって言ってるでしょう。」

「そうだ、恥ずかしいだろうな。どれワシの体温を計って貰おうか。」

『ぱくっ!』

「あ、ああ、お爺ちゃん、止めてよ。それって体温計じゃないんだから。」

「おお、体温計にしてはデカイと思ってた、あっはははっ。」

「もう止めて、また熱が出そうだから。」

「それは大変だ。また看病させられるからな。」

「お爺ちゃん、有難う。本当に身体に気を付けて長生きしてね。」

「こんな時に人の心配しないで良いから、もう少し寝てろ。」

「あ、その解熱剤どうしたのですか。」

「どうって、薬局で体温計と一緒に買って来たんだ。そんで呑ませただろう、憶えていないのか。重症だな。」

「わざわざ走ってくれたのですか、有難う。それでね、さっきから気になっていたんだけど、なにかコゲ臭くないですか。」

「うん、すまん。夕べ、魚煮付けてて薬局に走ったから忘れてな、鍋を駄目にしたんだ。」

「なんだ、そんなことでしたか。鍋くらい良いですよ。それより魚の煮付け食べ損なったんですね。」

「ああ、勿体無いことした、あっはははっ。あとで粥つくってやるから。暫らく寝てろ。」

「うん、有難う。お爺ちゃんも寝て下さいね。」

明けがた、外が騒がしくなって、何時もと変わりない一日が始まった。横の畳に布団も敷かずに毛布に包まって寝ている善吉お爺ちゃんが、かすかな寝息をたてて寝ている。

それを見て、安堵と幸せで涙が出てくる。

「お爺ちゃん、有難う。」

善吉お爺ちゃんを起こさないように頬に軽く唇を付け、ふら付きながら、そっとトイレに行き、戻って来て再び寝てしまった。

次に目が醒めたとき、台所から味噌汁の美味しそうな匂いがしてきていた。

長ネギ刻んでいるのだろう、軽快に俎板(まないた)を叩く包丁の音が聞こえている。

「お爺ちゃん、おはよう。昨夜は有難う。すっかり世話掛けてしまったね。」

「そんなことは、どうでも良いんだ。熱は下がったのか。そんで、今日は仕事休むんだぞ。」

「はい、まだフラフラしていますから後で会社に電話します。」

「うんうん、そうした方が良い。序でに一週間か二週間くらい休み取れないのか。最近無理していたようだから。」

「そんなこと出来ませんよ。会社が倒産するでしょう。」

「年間売り上げ数百億の会社が、新平のズル休みで倒産したら面白いだろうな。ちょっと大きく吹き過ぎだろ。」

「あっはははっ、それもそうです。でも、この際だから3、4日休むつもりです。仕事もチョット、キリが良いようですから。」

「ああ、そうしたが良い。さあ粥が出来たから一緒に食べよう。」

「あら、奥さんが待っていらっしゃるのではないですか。」

「ははぁーん、その頃から憶えていないようだな。」

「え、どうしてですか。」

「昨夜、新平が帰宅するとき家の前で説明したんだぞ。婆さんが孫のとこにいって泊まるから、今夜は一緒に晩飯食べようって言ったんだ。」

「そうだったんですか、言われてみたら、電車を降りて駅を出た頃からの記憶が曖昧なんです。」

「トロンとした目つきで、ナマ返事してたから、そん時気付いてたらよかったんだがな。さあ飯にしよう。」

「ああ、そんなことが、そうでしたか、はい戴きます。」

温かい朝食のあと、会社に休暇申請の電話をし、善吉お爺ちゃんに肩を貸してもらって布団に横になる。

まだ頭が痛く、熱もあるようだ。

「どれ、体温計。」

「あ、これもお爺ちゃんがもって来てくれたんですか。」

「うん、だからさっき言ったろ。薬局で解熱剤と一緒に買って来た。ワシからのプレゼントだ。まったく何にも無いんだから、いままで風邪引いたときなど、どうしていたんだ。」

「どおって、別に難易もしていません。時々熱や咳で会社を休むことはありましたが、じっとして寝てただけです。」

「食事はどうしていたんだ。」

「食べたり、食べなかったり。たまにレトルトの粥がありました。」

「一人者は、暢気だな。胃薬とか解熱剤くらいは準備しといたが良いんじゃないかな。」

「はい、判りました。今後、準備します。」

「うんうん、素直で結構。あっはっはっ。」

善吉お爺ちゃんのお陰で、ゆっくり風邪を治すことが出来、結局四日の休暇と、その後の土日曜日があったので月曜日から出勤出来た。

その風邪で休んでいた五日目の土曜日の朝、善吉お爺ちゃんの奥さんが見舞いに来てくれた。

「新平さん、大変でしたね。もう熱は下がったの。」

「ああ、奥さん。ご主人には大変お世話になりました。お陰で熱も下がり、月曜日から出勤出来そうです。」

「それは良かったわ。主人も、張り切っちゃって、かえってお邪魔じゃなかったかしら。」

「そんな事有りません、助かりました。有難う御座いました。」

「それでね、今度は主人が寝込んじゃったの。」

「え、風邪でもうつしたんでしょうか。」

「そうじゃ無いようだけど、今日一緒に娘婿の母親の法事にに行く予定だったのに、体調が優れないとか言ってるの。私だけ行って来ますけど、良かったら後で覗いていただけないかしら。大したこと無いと思うんだけど。ご免なさいね。」

「はい、判りました。洗濯が済んでから覗いてみます。きっと疲れられたんでしょう。」

なんだか、六日前の幻覚が予見したかのように、善吉お爺ちゃんの奥さんが喪服姿で出かけて行った。

四日間敷きっぱなしだった布団を外に出して干した後、水枕を返そうと善吉お爺ちゃんの家に裏の勝手口から入って行く。

お爺ちゃんは、ジャージ姿でソファーに凭れ掛かって転寝している。

そっと近付いて、お爺ちゃんに気付かれないように身体に被さり唇を付けにいき、そのまま抱きつく。

「お、新平か。吃驚するじゃないか、風邪は治ったのか。う、うう、止せ、風邪がうつるだろ。あ、あう。」

そう言いながらも、新平の身体に両手を回して抱きついてくる。

「うつした方が早く治るそうだから、うつしに来ました。」

「そうか、新平が早く治るんだったら、うつして良いぞ。あ、ああ。」

「お爺ちゃん。体調が優れないって聞きましたが、大丈夫なんですか。」

「何だ心配してくれてんのか。あっはっはっ、そうか、婆さんが覗いてくれって言ったんだろ。心配いらない。」

「それじゃ、ズルしたんですか。」

「ああ、娘婿は良い奴なんだが、あいつの親父が威張るから顔合わせたくないんだ。」

「なんだ、心配して損した。会いたくないって、ガキみたいなこと言って、お仕置きしたろかな。」

「うん、たっぷり、新平流のお仕置きしてくれ。あ、あう、あう。」

「ここではゆっくり出来ないから、私の家に行きましょう。どんな刑罰にしようかな、鞭打ちとか、亀甲縛りでローソクとか。」

「そうか、嬉しいな。久し振りのお仕置きだ。うふふふ。先に行っててくれ、すぐ行くから。」

浴室でシャワーを掛けあって、久し振りに善吉お爺ちゃんの肌の温もりを抱き締め、簡単に直腸洗浄をしてやって寝室に行く。

「生憎、お布団を干しているので、毛布しかありません。」

その毛布を敷きバスタオルを拡げる。

「あ、ああ、お爺ちゃん。そんなに慌てないで、あ、ああ、いいから、久し振りだからゆっくり、あ、ああ。」

素っ裸のお爺ちゃんが、新平の腰を捕まえ尺八してくる。

「もう駄目だ、待てなかったんだから。うぐ、うぐ、お、おお、嫌らしく勃起してきたな。」

入れ歯を外している、善吉お爺ちゃんの喉奥まで、新平の竿が吸い込まれていく。

「わ、お爺ちゃんのも以前より硬さが増してきているね。若返ったんでしょうか。」

お爺ちゃんのチンポも元気に、新平の口の中で暴れまわっていく。

「あのな、新平が熱を出して寝込んでいるとき、こっそり尺八してみたんだ。そん時、新平がうわごと言って、ワシの名前を呼んでいたんだ。嬉しくって涙がでてな。」

「そんなことして、駄目じゃないですか。訴えますよ。」

「うん、どこでも良いから、郵便局でも銀行にでも訴えてくれ。あ、ああ、お、おお。」

「ん、もう、落ち着いて病気も出来ないですね。」

「そうだ、スキを見せたら、何時だって犯してしまうからな。でもな、ちょっと悪いかなぁーって反省していたんだぞ、しかし、誘惑には弱いんだ。」

「あ、ああ、誘惑なんてしていませんよ、あ、ああ。」

「そこに新平のチンポが見えているだけで、しっかり誘惑なんだ。うぐ、うぐ、あ、ああ、気持ち良いなぁー。」

「そのまま、最後まで射かせなかったのですか、あ、ああ。」

「あ、ああ、まあな、そこまでやって病気が酷くなったら犯罪だからな。あ、ああ。」

「射かせなくっても、しっかり犯罪だと思いますが、ああ、もう駄目だ、うつ伏せになってよ。」

「ん? うつ伏せで良いのか。あ、ああ、どっこいしょっと。うっひょー。入って来たぞ。う、うう、あ、ああ。痛い…。」

「ごめん、ちょっと慌ててしまった。あ、ああ、確かにお爺ちゃんのアナルだ、懐かしい気持ちさえ、あ、ああ。」

「おい、新平。そんなに、あ、ああ、頑張って、ああ、大丈夫か、あ、ああ。う、うう、ううーん。」

「ふっふっ、ふっ、ふっ、あ、ああ、ふっ、ふっ、ふっ。」

「新平、好きだ。オレの息子だからな、あ、ああ、射く、射く…。」

枕を両腕で抱き、そこに横向きで顔を伏せ涎を流しながら時々尻を持ち上げて奥深く向かいいれてくれる。

正上位に移り、抽送していると、お爺ちゃんは、自分でチンポをシコシコ扱いて先に射ってしまった。

絞め付けるお爺ちゃんの肛門括約筋が、新平の爆射を促進してくれた。

「あ、ああ、お爺ちゃん、勝手に先に射って、あ、ああ、私も、あ、ああ・・・。く、くぁー。」

善吉お爺ちゃんの、奥深くに爆液して果てた。また、

その日の夕方にも、お爺ちゃんの誘惑に負けて二度目の絡みで、夕食の準備も遅くなってしまった。

(2)

風邪騒動から一週間後、その筋の尾行が解かれた戸畑お爺ちゃんとのドライブに出掛けた。

待ち合わせた、戸畑お爺ちゃんの家の近くにあるセルフ式給油スタンドには15分くらいも前に到着してしまう。

車を降りて、トイレに入り戻ってきたところに戸畑お爺ちゃんが、濃紺のジャージ姿にリュックサック背負ってやって来た。

「おはよう御座います。戸畑さん、約束通りのジャージ姿の軽装ですね。似合いますよ。」

「やあ、上野さん。お待たせしました。出かけに家内が見っとも無いからって煩いんだ。こんな姿で外出なんかしたこと無かったんでな。なんとなく若返ったようで嬉しいよ。」

「あははっ、戸畑さんは、黙ってたら農場にもスーツ姿で行きかねないですからね。」

「おいおい、そんなコトは無いぞ。農園に背広着てなんて。あっはっはっ、あ、でも農協に交渉に行くとき背広で行ってる。」

「でしょう、長年、背広生活していると、どうしても、そうなるんだそうですよ。」

「ううーん、言われて見れば、背広なんか着る必要無いんだよな、あっはっはっ。よいしょっと、お待たせ。」

「はい、では出かけましょう。」

「さあ、行きましょう。宜しくお願いします。」

お爺ちゃんは、リュックを後部座席に置いて、『準備できたよ』って顔して新平を見て来る。

しかし、シートベルトも締めず、両膝を合わせ、手を膝に乗せて、何となく固まっている様子だ。

戸畑さんが、シートベルトに気付くかと待っていたが、出発しない新平の顔を不思議そうに見て来る。

「戸畑さん。あのぉー。」

「はい? 何でしょうか。」

「すみません、シートベルトを…。」

「ありゃ、忘れてた。あっはっはっ、すみません。ナビゲータシートに座るのが久し振りなんで、失礼しました。」

「あっはっはっ、そうですよね。私も助手席にたまに乗ることがありますが、よく忘れています。では、出発します。」

土曜日の朝だが、道路は相変わらずの渋滞だった。

しかし、戸畑お爺ちゃんが横に座ってもらってるだけで、苦にならない。

「なあ、上野さん。」

何となく言い難そうに戸畑お爺ちゃんが口ごもるようにして話しかけてくる。

「はい、何でしょうか。戸畑さんの頼みだったら何でも聞きますよ。」

「大したことじゃないんだがな。」

「どうかしましたか。」

「今日のドライブだが、上野さんの同僚の実家に農園見学で三人ずれって言ってきたんだ。」

「ああ、それは良い考えですね。二人っきりで温泉に行ったって構わないでしょうが、疑う人もいるかもしれませんからね。」

「そうなんだ、特に菜園の連中には知られたくなかったし。」

「判りました。そう言うことで、三人連れだったことにしましょう。」

「ところで、上野さん、時間はどのくらい掛りますか。」

「えっと、この間、電話で聞いた温泉までだと、100キロくらいですから、二時間ちょっとでしょう。」

「ああ、やっぱり、そのくらいは掛かるでしょうね。でもボチボチ行きましょう。」

「はい、高速を走っても良いのですが、急ぐことも無いし、それに一緒に景色を眺めながら走りたいですから。」

「そうですね、私も高速道路は、あまり好きじゃないんです。」

「それは良かった。時間だって然程(さほど)違いませんから。」

「そうです。それにしても今日は良い天気になってくれました。」

「戸畑さんの、行いが善いからでしょうね。」

「あははっ、それはどうでしょう。怪しいかもね。むしろ上野さんの行いが善いからでしょう。」

お互いの呼び名も、この際だからと『お父ちゃん』『新平』と言うコトで話し合いがまとまった。

車中、戸畑お父ちゃんが、勤務していた頃の思い出話や、家庭菜園を開設した経緯などを聞きながら快適なドライブを続ける。

時々、お父ちゃんの膝に左手を乗せ、その、上にお父ちゃんが優しく手を被せてくれ、顔を見合わせてニッコリ笑ってくれた。

「お父ちゃん。」

「え、ああ、新平。あっはっはっ。ちょっと照れるな。」

「だんだん慣れてきますから、無理しなくって良いですよ。」

「ああ、ほんと息子が出来たみたいで嬉しいです。」

「ところで、半分くらい走って来ましたが、目的の温泉までは、まだまだです。疲れませんか。」

「いや、大丈夫。それより、新平、普段はあまり長時間の運転していないんだろ、どこかで一休みしようか。」

「ええ、ちょっと飽いて来たトコなんです。温泉は次の機会にして、この際、目的地を変更しませんか。」

「ああ、そうですね。どこか適当な温泉場で良いですよ。」

「温泉場でなくって良いですか。」

「ええ、構いませんが、温泉場でないって、健康ランドですか。」

「ま、ちょっと違いますが、早いトコ二人っきりでゆっくりしたいんです。良いですか。」

「え、ええ、目的が、そうでしたからね。新平に任せます。」

お父ちゃんの物分りが良いのに感謝し、膝に乗せていた手を引き寄せて、ちょっと膨らんだ新平の股間に持っていき、ズボンの上から擦らせる。

「あっ。」

小さく声を出したお父ちゃんが、顔を赤らめて前方向いて黙り込んだ。

しかし、新平のチンポを掴んだ手はそのままで、時々遠慮深げに『もみもみ』してくれている。

「な、新平。ちょっと厚いな。」

「そうですか、ちょっと冷房の風を強くしてみましょう。風向きを適当に変えてみて下さい。」

新平のチンポを触ったコトもあってか、お父ちゃんが上気した様子で、顔色も赤くなっている。

「お父ちゃん、熱があるんじゃないでしょうね。」

「いや、大丈夫だ。ちょっと動機がするかな、新平のチンポの熱が伝わってくるからな、あっはっはっ。」

「だったら良いのですが、ちょっと顔色が赤いですよ。」

「うん、大丈夫だ。」

冷風の向きを顔に向け、腕組みして涼しそうにしている。

「この近くに、休めるトコが有ったように思っていましたが、もう暫らく走って見ますからね。」

「・・・・・。」

お爺ちゃんは、気持ち良くなったのか『スースー』と軽い寝息を立てている。

新平は、左右を見渡しながら、モーテルの看板でも無いかと、お父ちゃんを起こさないように話しかけるのを止めて走らせていた。

「あれっ、様子が何となく変だが、お父ちゃん大丈夫ですか。」

戸畑お爺ちゃんが、うなだれるように下を向いて寝ているが、ちょっと鼾が気になる。

普通の寝息や、鼾とは何となく違っている。息も荒く、時々大きく欠伸している。

まさかとは思うが、心配になって左側路肩に車を寄せて停車させ、顔を覗いて、異様さが増した。

顔も、頭からも汗びっしょりだ。

「お父ちゃん、具合が悪いのではないですか。お父ちゃん大丈夫ですか。」

「・・・・・。」

コレだけ傍で話しかけているのに返事が無い。どうしたことだろうか。疲れて寝ているのとは様子が違っている。

ちょっと肩を揺すって見たが反応が全く無い。相変わらず、大きい鼾をかいて気が付いてくれない。

暫らく様子を見ていたが段々不安になって来た。

「えっ、まさか・・・、脳梗塞?」

事態が大変なことになっている。取り敢えず、引き返したものか、それとも近くの病院に駆け込むかしなければならないようだ。

「お父ちゃん、大丈夫ですか。」

返事を期待して呼びかけてみるが、戸畑お爺ちゃんには変化が無い。規則正しくだが、大きな鼾は相変わらずだ。

土曜日でもあったので、病院だってドコでもって訳にはいかないだろう。思わず、携帯電話で『119』をプッシュしてしまった。

簡単に症状を連絡して受け入れてくれる病院を聞くことにしたが、直ぐには返事出来ないとのコトだった。

思案にくれていたが、どうしようもない。五分程して、遠くから救急車の音が聞こえて来る。

これで一安心だとおもったが、色々聞き出されるのではないかと、勝手に逃げられる言い訳を考えたりしている自分が無責任に思えて腹立ちさえ憶える。

このまま逃げ出したい気持ちだが、気を失っている戸畑お父ちゃんを残して立ち去るわけにも行かない。

戸畑お爺ちゃんには、こうした持病が有ったのだろうか。

何度か会ってはいたが、持病の話など聞いたことが無かった。

新平の車の緊急停車フラッシュランプの点滅に合わせて、カチカチ、カチカチと音を出しているのを聞いて自分の心臓も早打ちしてくる。

「お父ちゃん、救急車が来てくれましたから、もう大丈夫ですからね。病院に行って診てもらいましょうね。」

返事をしない眠ったままの戸畑お父ちゃんに話しかけて、新平は自分を落ち着かせている。

(つづく)

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(本作品は源次郎さんのブログ「お爺ちゃん達のときめき物語」(http://sinpei53.at.webry.info/)に掲載されたものを、源次郎さんのご了解を得て、転載させて頂いたものです。)

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