上野新平シリーズ(第69話):海釣り公園のお爺ちゃん(5) By源次郎


(9)

「どうだ、美味いだろ。」

隣に住む福島善吉お爺ちゃんが、新平が帰宅するのを待ちかねたようにニコニコ顔で赤カブの酢漬けをタッパーに入れて持って来てくれていた。

新平が、滴る酢漬けのカブを指で摘まんで、口に入れたところで噛んでもいないのに感想を聞いてくる。

「うん、美味い。」

「何だ感想はそれだけか。」

「だって、まだ味わっていないでしょう。ゆっくり味わってから正直なところを伝えますから。」

「だったら早く味合え。それはそうと新平、何か悩んでいる事でもあるんじゃないか。」

冴えない新平の顔を覗きこんで聞いてくる。

この善吉お爺ちゃんには、隠し事が出来ないのは判っているが。

一瞬ドキリとさせられる。

確かに、今日の新平は、今朝、田川お爺ちゃんから電話が有り、その話の中の「ウス」と言っていたニックネームの人と、惣菜屋のお爺ちゃんが同一人物か、たまたま同じ名前の人かと考えあぐねていた。

お爺ちゃん達の話が共通している所と、くい違った部分が多いのも気がかりだった。

二人とも『お仲間さん』であるのは確かだが、別人であるようにも思われるので、ストレートに聞き出せないでいた。

「そんなコトはありません。赤カブって、もともと甘いんですか。」

「甘いって事は無いだろうが、どうしてだ。」

「さすがですね、カブ本来の味を残したまま酢に馴染んでいますね。昆布も入れているんですね、ネバネバが程好くて良いですよ。」

「おお、そうか。美味かったら又持ってくるから今夜はこれで焼酎のアテにして飲んでくれ。」

やっと機嫌良くなったお爺ちゃんが、自分もタッパーに指を入れて一枚つまみ上を向き口を開けて舌先に乗せ、片手で顎の下を支え汁が垂れるのを受け止め『カリッ、カリカリッ』と食べている。

「お爺ちゃん。折角私に持って来てくれたのに食べないでよ、減ってしまうでしょう。」

「おや、ケチだね。そんなことを言うと全部持って帰えるぞ。」

「駄目だよ、もう貰ったんだから私の物です。お礼も言ったし。」

「あっはっはっ、ガキの喧嘩みたいになったな。それじゃ帰るからな。」

「もう帰るんですか、すぐ仕度しますから飲んで帰って下さいよ。」

「残念だが、今夜は飯食ったら自治会の役員会なんだ。先月は婆さんに出席させていたから今月はワシの番なんだ。又ゆっくり飲もう。」

「それはお疲れ様です。」

「そうだ、新平。客間の二間の障子の張替えしないと色がクスンでいたぞ。」

「ああ、気が付いていましたが、面倒なのでその内、駅裏の表具屋さんにでも頼もうと思っていました。」

「障子の張替えくらいは自分でやれんのか。」

「やれば出来るでしょうが…。」

「そんじゃ、来週にでもワシがやっとく。じゃぁな。」

「すみません、有難う御座います、お手伝いしますから。赤カブの酢漬けのお代わりも宜しく。」

「アホ、お手伝いじゃ無いだろ。赤カブは、それが無くなってからだ。あっはっはっ。」

善吉お爺ちゃんの笑い声を聞いて疲れが取れる気がする。

別れ際に、そっとお爺ちゃんの股間に手を持っていき、サワサワとモッコリさせた部分をさすってやる。

「バカ、思い出してしまうだろ、忙しいんだ。」

腰を引きながらも、自分も新平のチンポを掴んで数回揉んでいる。

「あ、ほんと、困ったな、その気になって来ます。」

「今夜は、大人しく我慢して寝るんだぞ。」

「冷たいんだから。」

「だから忙しいっていったろ。またゆっくりな。」

善吉お爺ちゃんは、それでも名残惜しそうな顔で、裏木戸から一度振り返って手を揚げて帰って行った。

夕食後、食卓に新聞を拡げ、テレビは点けっ放しで焼酎をチビリチビリと飲んでいたが眠くなって来る。

まだ時間は、午後九時を回ったばかりだったが、居間の電灯も点けたままで寝室に行って押入れから布団を出して寝転んでしまう。

遠くで電話の呼び出し音が聞こえるが、眠たくて起きて行く気がおきない。

こんな深夜に何の電話だろう。

起きて行って間違い電話だったりすると余計腹が立つ。

それとも昼間留守しているのでセールスかもしれない。

最近やたらとマンションだの電話回線切替のセールス電話がある。

営業だったら足で回って誠意を売ってくれと思いたくなる。

でもそうした営業でコストダウンしているのだろうか。

いずれにしても面倒くさい。

このまま寝ていたほうがましだ。

どうしても個人的な用事が有るんだったら携帯電話に掛けて来るだろう。

そう思って再びまどろんでいた。

数分後、携帯電話が鳴り出した。

やっぱり個人的な急ぎの用事があったのだろう。

考えられるのは、現場事務所からだ。

だとすると居留守使って明日でも掛け直したら済むことだ。

それにしても、しつっこい呼び出し音だ。

根負けして起き上がり居間の壁に掛けていた通勤服のポケットから携帯を取り出し発信者の番号を見てみた。

田川お爺ちゃんだ。

そう言えば今朝、会社に掛かって来ていたんで、掛け直すからと言っていたんだった。

「あ、お待たせしました。お爺ちゃん、こんばんは。」

「なんだ新平。寝とぼけた声だな、お子様じゃ無いんだから、こんなに早くから寝ていましたなんて言うんじゃないぞ。それとも出るのが遅かったが風呂にでも入ってセンズリ掻いてでもいたのか。」

「あはははっ、お察しの通りお子様なものですから寝ていました。お爺ちゃんとは違いますから、風呂でセンズリ掻いたりしません。」

「うそだろ、風呂でセンズリは常識じゃないのか。」

「はい、ウソです。時々掻いています。でも今夜は寝ていました。」

「そうか、疲れているんだな。それじゃ今度にするか。すまなかったな。」

「お爺ちゃん、大丈夫ですよ。退屈していたので転寝(うたたね)していたんです。それでウスさんの事思い出しましたか。」

「良いのか、そのウスだがな、かれこれ40年も前のことだから良く思い出せないんだ。」

「それでは何の手掛かりも無いんですか。それにどうして今更会いたいなどと思ったのですか。」

「そうなんだ、今頃になってどうして思い出したのかも不思議なんだ。」

「それで、惣菜屋さんってのは間違いないんですか。」

「うん、そう聞かれると自信が無い。あの頃は、あいつ遊び人みたいでな、親父が商売やっていたらしいが弁当屋だったかな。本人はパチンコで小遣い銭稼いでいたようだった。」

「どうして知り合ったのですか、それで会って見ても相手が忘れてるって事はないのですか。また再会することで迷惑かけることはないんですか。」

「そうだな、忘れられててもしょうがないかな。言われてみたら、迷惑がられる可能性も無いとは言えないな。」

「あはははっ、そんな人をどうして急に思い出したのですか。」

「そう責めるな。俺も不思議なんだ。あいつが死んだのでオレに思い出させたのではないかと気になってな。線香の一本でもあげたいだろ。」

「ふぅーん、優しいのですね。それより、何か隠しているでしょう。お爺ちゃんは船に乗っていて、そんな遊び人と知り合うこと自体が可笑しいですよ。」

「なんだか詰問されているようだな。」

「そうではないんですが、探す手掛かりでもあればと思ったものですから。」

「実はな、H駅の裏にあった『ひだまつ』って旅館で知り合ったんだ。」

「なんですか『ひだまつ』って旅館ってのは。」

「うん、今は無いかもしれないが男色の仲間が宿泊する旅館だ。」

「えっ、昔からそんなのがあったんですか、たしか名前は判りませんが、そんな所があるって聞いたことがあります。淫乱宿とか言われている雑魚寝する安宿なんでしょう。」

「そうだ、今夜は遅いから又ゆっくりしたときにでも話ししようか。」

「目が醒めてしまいました。もう少し話を聞かせて下さい。」

「いいのか、俺も退屈していたので話ししたかったんだ。」

「ウスさんは、お仲間さんなんですね。それで知り合って絡んだのですね。」

「そうだ、オレは15の時から船に乗っていたから、先輩の相手をさせられてウケで育ったんだ。」

「ウケしか出来なくなるんですか。」

「そんなコトは無い。充分タチだって出来る。だから結婚して子供も三人、孫も居るだろ。」

「そうでしたね、失礼しました。ウスさんも結婚されたのですか。」

「ああ、結婚して家業を継ぐんだと言っていた。そんで色々あって俺が次に三、四ヵ月ほど後に陸(おか)に上がって『ひだまつ』に行ったんだが会えなかった。」

田川お爺ちゃんの声が涙声になっている。

「お爺ちゃん、色々って何でしょうか、聞かなくてもいいことですか。あれ、泣いているんですか。」

「ばか、鼻水が・・・。」

「泣いたって良いじゃないですか。そのウスさんも今頃泣いているかも知れませんよ。」

「元気で生きててくれてるかなぁ。無性に会いたくなった。俺も歳だからな、元気で居たいが、こればかりはな。」

「お爺ちゃん、そんな湿っぽい話だったら切りますよ。」

「待ってくれ、ついつい愚痴ってしまった。ところで約束の土曜日は大丈夫だったか。」

「今のところは行けそうですが、海は荒れていないでしょうね。」

「60年も海の上で生きてきたんだ、シケが来るときは身体が反応する。」

「ね、お爺ちゃん。もう少し良いですか。色々あってと言うのも聞かせてもらいたいし。」

「なんだ、眠たいんじゃなかったのか。色々ってのは、後でゆっくり話す機会があるだろう。」

「だから目が醒めましたって言ったでしょう。こちらから固定電話に掛け直しますから待っていて下さい。」

「このままで良いだろう。」

「これって携帯電話でしょう。通話料が勿体無いですから、それに飲み物くらい準備して掛け直します。」

「高いって言ったって大したこと無いだろ、そんな気は使わなくっても良いんだぞ。」

「判りました、でもお爺ちゃんも焼酎とティッシュくらい準備して待ってて下さい。」

「ティッシュは要らないだろう。」

「あはははっ、話しの途中でせんずり掻きたくなるかもしれないでしょう。」

「そんな時は、気持ち良くぶっ飛ばして、後で拭き取ったら良いんだ。」

「染みが残りますよ。」

「うん、判った、判った。待っているからな。」

新平は、コードレス電話、焼酎、ポット、コップ、それに残っていた赤カブの酢漬けを準備し居間の電灯を消して寝室に移った。

「あ、お爺ちゃん。お待たせしました。」

「ほんと待たせたな、何していたんだ。寝てしまったかと思っていたんだ。」

「そんなこと出来ませんよ。焼酎のアテに何しようかと冷蔵庫を探していたのです。カリカリ…。」

「それで、今食ってるのはタクアンか。良い音させているが。」

「はははっ、戴き物の赤カブの酢漬けです。」

「それは旨そうだな。自分では作らないのか。」

「一人で食べるのですから出来合いを買った方が楽で安上がりなのですよ。」

「そんな手抜きじゃ駄目だね。少量でも自分で作らないと。」

「はいはい、説教はそのくらいで、話の続きを。」

「そうだったな。ウスと出会ったのは40年前だ。そこの『ひだまつ』だった。そこは老けが沢山集まってくるのだ。」

「ああ、老け専宿なのですね。」

「そんな限定したものでは無かった。俺みたいに若いのも沢山来ていた。でもな、若い俺がウケだったのでモテないんだ。」

「それは淋しいですね。」

「タイプのお爺ちゃんに目を付けても相手もウケでは上手く行かないのだ。俺もタチになって頑張ってみたが、根が甘えん坊だったから上手く行かないんだ。」

「でしょうね。あははは、甘えん坊でしたか。」

「あそこでは、若い者は警戒されていたようだ。色々な事件があったらしくってな、そんな時、3Pだったか4Pだったかの絡みを見学させてもらっていたとき横に来て見て居たのがウスだった。」

「ウスさんは、タチだったのですね。モテモテだったのでしょう。」

「そうでもなかったようだ。若かったから相手にしてもらえなかったのだろうな。それでも何人かの5、60代のウケと遊んでいたらしいがな。」

「ふぅーん、そんなものですか。若いのは警戒されるって始めて聞きました。元気があってモテそうですが。」

「そうでもない。やっぱ若いってだけで、どんな仕事しているかも判らないし、あとで強請(ゆす)られたりしたら会社や家庭に性癖がバレるからな。」

「ああ、そう言う意味ですね。だったら今でも同じでしょう。」

「うん、一昨年だったか、O市の会員制スナックを久し振りに覗いたが、やっぱり若いのは怖かった。病気も警戒しないとな。」

「あはははっ…。」

「何か可笑しいこと言ったか。」

「いいえ、そんな若い者を敬遠するお爺ちゃんからモーション掛けられた私は若くないってことですね。」

「うん、充分若くない。それに、定職もあるし責任持った仕事していたからだ、地鎮祭の時気になって新平ばかり観察していたが、あの時、新平は代議士の股間ばかり見ていただろう。」

「そんなこと見られていたのですか。油断してしまいましたね。何か喜んで良いのか悲しいことなのか複雑ですね。」

「そんなコトは気にするな。誰だって面白くも無い地鎮祭だ、お仲間が居ないか観察したくなるだろう。」

「気にするなって言われてもね、あはははっ。自分でも若くないって思っていますから。」

「それとな、あんな会場で女の子の方ばかり気にするのも居るし、そこの見分けが面白いんだ。タイプのオトコが居たら、こいつがお仲間さんだったら、どんなヨガリ声で絡んでくれるだろうかと想像して楽しむんだ。」

「わ、普通そんなこと考えないでしょう。でもはっきり、そう言われて見ればそうかもしれないですね。」

「新平、そんな話では無かっただろ。脱線させるな。」

「そうでした、3Pだったか4Pだったかを見学していたんでしたね。」

「うん、そのうち、ウスがオレの肩に手を掛けてニッコリ笑ってきたんだ。」

「おお、タイミングよく信号送ってくれたんですね。」

「何度か見かけてはいたが、俺などは相手にしてくれそうも無かったから、あまり近付いたりしていなかったんだ。しかし近くで見直してみると良い男なんだ。」

「ハンサムって顔だったんですね。」

「そうじゃ無い、ハンサムってより、男前って表現が当たっている。」

「どんな違いなんでしょう。」

「それはどうでも良いことだ。すぐ二人で個室に入った。」

「話が、単純過ぎますね。即絡みですか。」

「そりゃそうだ、お互いの目的が絡み合って、抜きたくて来ていたんだから、無駄な世間話など必要無いだろ。」

「それもそうですが、そこに行くまでの会話とかが聞きたいですね。」

「そんなモン忘れた。」

「でしょうね。40年前のことですからね。それで…。」

「それだけだ。」

「何ですか、それだけだって。私が聞きたいのは、その後の付き合いとかですよ。デートの場所とか付き合った年数とか。」

「ウスとは、俺たちの船の整備が済むまでの二月余りの期間だけだった。毎日のようにドライブしたりホテルで夜明かしで絡んだりしていた。喋りは乱暴なんだが性格が良くって優しかったんだ。」

「そうした間に家業の話などを聞いたのですね。」

「うん、聞いていたんだろうが、今にして思えば、いい加減な会話だったんだろう。あまり憶えていないからな。」

「何かからだの特長とか癖とかは憶えていないのですか。」

「それがな、俺も惚れ込んでしまったので、度々しゃぶってたウスのウワ反りの形と、猛る狂った時の色艶のチンポしか記憶に無いんだ。」

「それじゃ探しようが有りませんね。残念ですがニックネームだけではね。」

「そうだろうな、時間がたってしまったからな。今でも、ウスが射く時の眉を寄せてせつなさそうに『タケ、タケ』って叫んでいた声を思い出すんだ。」

「え、タケって何ですか。」

「あいつは、俺の名前の武士(たけし)をタケ、タケって呼んでいたんだ。」

「え、田川お爺ちゃんは萬蔵(まんぞう)さんだったでしょう。良いお名前でしょう。武士って名乗っていたのですか。」

「うん、子供の頃は、バンゾウ、バンゾウって呼ばれてて好きじゃなかったんだが。それでウスには、サムライが好きだから武士(たけし)って教えていたんだ。」

「本名は名乗り合わなかったのですか。」

「その内にって、思っていたのだが言いそびれてしまった。」

「萬蔵って良い名前じゃないですか。新平よりましですよ。」

「俺は、新平って名前が好きだな。おい、眠くなって来た、明日も仕事だろ、そろそろ寝ようか。」

「そうですね、遅くなりましたね。風邪引かないように寝てください。」

「海の男は風邪なんて引かないんだ。」

「海の男は、昔のことでしょう。もうお爺ちゃんですから。」

「新平。そんなこと言うと今度逢ったとき苛めてやっからな。」

「あはははっ、はいはい、苛めてください。お休みなさい。」

お休みの挨拶を交わしたものの電話を切ったのはそれから随分後だった。何度も『おやすみなさい』を言っていたようだ。

長い電話だったが、楽しかったためか、あっと言う間に時間が過ぎた。

(10)

臼杵お爺ちゃんと自宅の浴槽で背中を流してやると誘って絡んでしまった事を思い出すと、後悔しながらもチンポが勝手に勃起してくる。

あの翌日から通勤の行き帰りに惣菜屋がある路地を覗いてみるが、シャッターが閉まったままのようだ。

気にはなるが、何となく未練ったらしくて店の方まで入って行けない。

それでも今夜で4日目だ、帰宅後に思い切って電話して見ようと思ったが、何故か躊躇して掛けそびれてしまった。

何か用事でもあったらとも思うが、ことさら問い合わせたりするのも変に思われそうだ。

田川お爺ちゃんの事にしたって『ご存知ですか』などと聞き出す勇気も無い。

風呂上りに、缶ビールを空けて、熱(ほて)った身体を持て余していた。

冷蔵庫を覗いて見たが、酒の肴になるような物が無い。

こんな時に、赤カブの酢漬けでもあったら良いのだが、田川お爺ちゃんと長電話した時に平らげてしまっていた。

買い置きの缶詰を取り出し、『いわし』にしようか、それとも『さば缶』にしようかと二つを手にして迷っていた時、電話がなった。

『プルプルー、プルプルー』

きっと田川お爺ちゃんだろ。暫らく呼び出し音を聞きながら田川お爺ちゃんの顔を思い浮かべながら受話器を取る。

「上野です。」

『・・・・・。』

電話は繋がっている様だが無言だった。

『悪戯?』とも思ったが、電話の向こうでテレビの音声と、躊躇って(ためらって)いるような息遣いが聞こえている。

「あれ、どうしましたか。聞こえませんが、上野ですけど。」

そう答えながら、着信番号を見てみたが田川お爺ちゃんの番号で無いのに気付いた。

『ああ、上野さん。夜分にすみません、お休みではなかったでしょうか。臼杵ですが。』

何故か、おどおどした声の臼杵お爺ちゃんだった。

「あらぁ、臼杵さん。今晩は、吃驚しました、どうされていますか。あの日は寒かったので湯冷めなどして風邪引きませんでしたか。」

『いいえ、その節はご馳走様でした。』

「そんな、ご馳走様だなんて、恥ずかしくなります。」

臼杵お爺ちゃんは、焼酎のお礼だったのかも知れなかったが、新平は浴室での事を先に思い出してしまい、喋りながらそれに気付いて赤面してしまう。

『こんな夜分に、ご迷惑ではなかったでしょうか。』

「そんなことは有りませんよ。臼杵さんさえ宜しかったら今からでも一緒に飲みましょうか。」

『嬉しいですね。先日は、すっかりお邪魔しましたので今夜は、私の家でやりましょうか。』

「え、それは構いませんが、ご家族がいらっしゃるのにお邪魔でしょう。」

『あ、家には誰も居ません。私一人です。』

「そうでしたか、息子さんご夫婦の家族の方と同居されているとお聞きしていたようですが。」

『はい、同居していましたが。三日前出て行きました。』

「出て行きましたって、喧嘩でもして別居されたとか。それで惣菜屋さんは閉店されたのですか。」

『ははははっ、喧嘩だったかもしれませんが、息子が本省に転勤しましたので東京の宿舎に一家揃って引っ越しました。店は取り敢えず昼間だけの営業にしています』

「本省にですか、それはおめでとう御座います。栄転だったのですね。」

『有難う御座います。それでご迷惑かもしれませんが、今からどうでしょうか。私がお邪魔しても良いのですが。』

「いいえ、寒いですから私が伺います。焼酎は持参しますから肴の準備をお願いします。」

『いいえ、手ぶらで来て下さい。賞味期限が迫った焼酎が沢山ありますので勿体無いから飲んで下さい。』

「焼酎の賞味期限は、大丈夫ですよ。その方が美味しいですから。かえってコクが出て良いくらいです。」

『以心伝心(いしんでんしん)』ってあるんだ。会って話をしたいと思っている人から電話だなんて出来過ぎるくらいのタイミングの良さだ。

「揚げたてのカキアゲです。熱い内に食べて下さい。それとも、おでんが良かったでしょうか。私は、さっきから一人で先に呑んでいました。」

はしゃぎ過ぎるくらいに喜んでいる臼杵お爺ちゃんを相手に飲み始める。

「はい、有難う御座います。臼杵さんの腕前は、とっくに知っていますから今更褒めたって、おこがましいですが、流石にプロの味ですね。」

「あはははっ、褒めてもらえるのは幾らでも嬉しいですよ。」

今夜の臼杵お爺ちゃんは、新平の家で遠慮しながら飲んでいた時とは人が違ったように、飲むピッチも早いようだ。

「臼杵さん、余り強くないって言ってらっしゃったでしょう。そんなに飲んで大丈夫なんですか。」

「あはははっ、今夜は上野さんが来てくれたので嬉しいんです。さあさあ飲みましょう。」

臼杵お爺ちゃんに勧められるまま飲んでいたが、先にお爺ちゃんがダウンしてしまった。

「あらら、お爺ちゃん、だから程ほどにって言ったでしょう。そんな格好で寝転んだら風邪ひきますよ。」

「大丈夫、上野さん。勝手に飲んでて下さい。ちょっと気持ちよくなりましたから横にならせてもらいます。」

「ちょっとって言われても…。あらあら、お爺ちゃん、毛布くらい掛けたが良いでしょう、押入れは何処でしょうか。」

立ち上がって、隣の部屋に入って見ると、お爺ちゃんの敷きっぱなしの布団があった。

「さあ、立って下さい。お布団に移りましょう。」

臼杵お爺ちゃんを立たせて肩を組み、腰を抱えるようにして布団まで連れて行く。

これ幸いと、お爺ちゃんの股間に手を持っていきサワサワともんでみる。

お爺ちゃんは、気付かなかったのか、足を引きづりながら布団まで連れて来るとバッタリ倒れ込んでしまった。

掛け布団と毛布を剥いで布団に転がしてやる。

「フニャフニャ、上野さんも一緒に横に…、フニュフニュ。」

「お爺ちゃん、何言っているんですか。酔っ払ってしまいましたね。お冷でも持ってきますから大人しく休んでいて下さい。」

お爺ちゃんを寝せて布団を掛け、先程の部屋に戻ったが、そのまま帰るのも申し訳なかったので、散らかった食卓を片付け、皿やコップを簡単に洗った。

お爺ちゃんには洋服を着せたままだったが大丈夫だったろうか、着替えまでさせてやったが良かっただろうか。

お冷を持って行ってやると言っていたので、水道水をコップに入れて、お爺ちゃんの寝室に入って行く。

「あれ、お爺ちゃん。起き上がってどうしたのですか、お水持って来ましたので飲んで下さい。」

そう声を掛けながら、臼杵お爺ちゃんを見たが、布団の上に正座して座り、肩を落とした後姿が震えているようだった。

新平の声に、お爺ちゃんは振り返り、そのまま頭を布団に押し付けて土下座してしまった。

「臼杵さん、お爺ちゃん。具合でも悪いのではないですか。」

お爺ちゃんの肩に手を置いて、顔を覗き込んでみた。

「上野さん、ご免なさい。申し訳ありませんでした。今夜は無性に淋しかったのです。」

「お爺ちゃん、顔を上げて下さい。どうしたのですか。」

「私が悪いのです。上野さんを誘惑しようと思って誘ったのです。」

「誘惑だなんて、そんなこと思っていませんよ。」

「あの時も、私から手を出してしまいました。それに、ここのところ一人で飲んでいて上野さんと、また抱き合いたいと思っていたんです。」

「お爺ちゃん。」

新平は、お爺ちゃんの前に座り、抱きついて背中を擦ってやった。

「上野さん、あの時は、私が誘惑したんです。謝るのは私の方なんです。」

「そんなことは有りません…。」

新平は、お爺ちゃんの話を途中で止めさせ、顔を両手で挟んであげ、唇を付けに行った。

「ああ、あ、上野さん。」

「お爺ちゃん、あの時のことは内緒にしようって約束だったでしょう。」

「うん、でも申し訳なくって。」

「気にしないで下さい、私も公園で会う前から、お爺ちゃんが好きだったんです。だから家に誘ったんです。」

「私も、上野さんのことが気になっていて、時々寄って惣菜を買ってくれるのを待ちわびたりしていました。それで長年封印していた性癖が起き出したのです。」

「そうでしたか、私は、あの夜のことが、お爺ちゃんの口から誰かに喋られたらどうしようと悩んだりしていました。」

「そんなコトは出来ません。約束でしたから。」

「お爺ちゃん、初めてお互いの気持ちが判り合えたんですから、その話は止めましょう。」

「うん、有難う。」

臼杵お爺ちゃんの家を出たのは、それから一時間余りたった午前0時くらいで、頭の真上にある月が狭い路地を明るく照らしていてくれた。

冷たい風が吹いていたが新平の身体は温かかった。

お爺ちゃんの肌の温もりが新平の身体に残っているようだ。

途中で会話を遮った新平が先に服を脱ぎ、もたもたしているお爺ちゃんの服を剥ぎ取るように脱がせていき、上向きにさせて覆い被さっていった。

おどおどしている臼杵お爺ちゃんだったが、唇を重ねられると、何かにスイッチが入ったように攻めてきた。

シックスナインで、しゃぶりあいながらも臼杵お爺ちゃんの両手は休むことなく新平の身体を撫で回し、くねらせ逃げる新平を貪欲なまでに求めてきた。

長年封印していた性癖だとも言っていたが、どんな切っ掛けで封印したのだろうか。

頃合を見て新平が、お爺ちゃんの股の中に身体を入れ、両足を取って身体を反転させ、ちょっとたるんだ双丘を舐め揚げアナルを舌で舐めにいった。

お爺ちゃんは、暫らく新平の舌先の感触を楽しんでいたようだったが、急に起き上がり拒否してきた。

「お爺ちゃん、どうしたのですか。黙って舐めさせて下さい。」

「そんなことは上野さんにさせたくありません。私に舐めさせて下さい。」

「お爺ちゃん。ああ、あぁー…。」

臼杵お爺ちゃんの舌が新平の菊門に入り込んできた時、新平の竿の先からはとめどなく先走り汁が流れ出していた。

それを、お爺ちゃんが手で扱き始め、続いてアナルに唾液をたっぷり垂らし中指を入れ、前立腺付近をかき回してくる。

「ああ、ああ、お爺ちゃん、限界です。出ます、出る、出る、ああ、ああ。」

お爺ちゃんに咥えられた竿の先からは、遠慮なくどっくん、どっくんと悦楽のオトコ汁を噴出していた。

「ああ、ああ、お爺ちゃん、ああ、ああ。」

「上野さん、有難う。美味しかったよ。この間は、恥ずかしさも有って味合う余裕が無かったので心残りだったんです。」

お爺ちゃんが満足そうにして、ニコニコ笑っている顔を引き寄せ、長いディープキッスをし、しばらく腕枕で昔話を聞いてやってから家を出てきた。

それは、結婚後に苦労して家業の惣菜屋を亡くなった奥さんとやってきたことの話しで、それ以前の話をすることは無かった。

田川お爺ちゃんが探している『ウス』という昔の友達ではないかとの思いはあったが聞き出せないままだ。

臼杵お爺ちゃんにしても、好き好んで昔の淫乱宿での話などする気もないだろうし、性急にそのことを聞き出しても悪いと思った。

新平が自宅に帰りついた頃、頭の上の月に、薄っすらと雲が掛かっていた。

(つづく)

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