上野新平シリーズ(第71話):海釣り公園のお爺ちゃん(7) By源次郎


(13)

船底から担がれるように足を引き摺りながら連れてこられたところは洗面所だった。

何をされるのかと、身体を硬くして壁に凭(もた)れさせ、ニヤニヤ笑っている青年を睨みつけた。

「髭剃る、見つかるからね。密行したからね。さようならね。」

何日も伸び放題の顔髭を剃らせてくれた。

汚いままだと密行者とバレると言ったが上陸させてくれるのだろうか。

「アイマスクしてね。トラック待ってるよ。帰るよ。」

片言であったが、男ははっきりそう言っていた。

何日ぶりだろう、甲板に出て来た。重油が浮いた潮の臭いだ。

腹いっぱいに潮の臭いと、ゴミ臭くない空気を吸い込むことが出来た。

「上陸出来るのかも。」

そう思った。生きて陸(おか)に揚がれる。

それからは肩を組んでくれてる青年を押し退けアイマスクを投げ捨てタラップを転がり落ちるように降りて岸壁に足が着いた。

外は深夜だった。港の明かりもまばらで、それでも日本の港の雰囲気が感じられ、何故か日本海側の港だと直感した。

それが当たっていたかどうかは今でも判らない。

後から降りてきた男が、慌てて田川にアイマスクをさせ、倉庫の裏手にでも連れていったのだろう。

そこに停まってエンジン掛けたトラックの荷台の扉を開けて乗せてくれた。

「ともだち、元気で。静かにしてね。」

中国人だったか、東南アジアの人間だったか、その青年は小さな紙袋を持たせ田川の尻を荷台に押し上げながら言って来た。

『静かにしてね』は、このトラックの運転手には田川が乗り込んでいるのを教えていないのだと思えた。

保冷車のようなトラックの扉が閉められ、暫らくしてトラックが走り出した。

トラックの中は真っ暗で、魚のトロ箱が積み込まれ、恐らく10度以下に冷房されていているのだろう、兎に角寒かったが安堵感もあった。

外を見てみたいが、穴一つ見当たらない。凍りつくような寒さと空腹で、飛び降りて逃げ出したかった。

港で別れ際に青年から渡された紙包みの中の握り飯を取り出し食ってみたが、氷の塊を食っているようだ。

おにぎりと一緒に入っていたボトルを中身も確認できない暗闇の中で恐る恐る飲んでみた。

それは、冷たかったが懐かしいコーラーだった。

『日本だ、帰れるんだ、生きているんだ、俺は田川萬蔵だ』

嬉しさで涙が溢れ出る。誰にも遠慮なく泣けるんだ。

寒いながらも体中が燃えるように暑い、生き返る体中の血潮が聞こえているようだった。

トラックは軽快なエンジン音で走っている。

どこまでいくのか、どこで降ろされるのか判らなかったが、緊張が解けた田川は眠り込んでしまった。

一難さって又一難。この後、忌まわしい事件が待ち受けていることなどとは思いもよらなかった。

乗っていたトラックが数時間後、何処だったかのドライブインに入った。運転手が朝食でもするのだろう。

頃合を見て、荷台の扉を少し開け、付近の状況を読んでから飛び降り、一目散に近くの叢に身を隠し、冷え切った身体を手で擦って暖める。

暫らく身を隠していた藪から、安全を確認して立ち上がってみる。

しかし、気が焦っていた田川だった、藪から立ち上がるのが早すぎたようだ。

ニヤニヤ笑った男が後ろに立っていた。

赤い縞模様のシャツを捲り上げている腕は熊みたいな真っ黒の毛で覆われ、100キロ近い大男だ。

「兄ちゃん、港から乗せられたんだろ。」

50がらみの男は、爪楊枝を『プッ』と飛ばして、田川の襟首を掴んで来た。

「済みません、見逃してください。御礼はさせてもらいますから。」

田川は、中国を出るとき持たせてくれた一万円札をポケットから取り出して渡した。

「なんだ今日は日本人か、まあいいや、それは貰っておこう。でもな、大人しくするんだぞ、どうせまともなヒッチハイクじゃ無さそうだ、今すぐにでも通報しても良いんだぞ。」

通報された方が田川には好都合だったのかもしれなかったが、密入国した形だったし、船主や中国から逃がしてくれた人にまで迷惑が掛かるのではないかと思い通報しないように懇願した。

運転手は、脅しながら荷台に捨てていたアイマスクを拾い上げ、それを付けさせ田川を助手席に乗せて走り出した。

「あのぉ、ここは何処でしょうか。何処まで行くんですか。」

「何処だって良いだろ、黙って乗っていろ。」

運転手は、相変わらずニヤニヤ笑って見てくるようだが、ドスが効いた低い声で言ってくる。

腹は減っていたが、日本に帰って来れた安心感と車内の暖かさでウトウトとしているうちに眠ってしまった。

「あっ、何するんですか。あ、ああ、痛い、止めてください、痛いです。あ、ああ。お願いです。お、痛い。」

田川の目を覚まさせたのは、トラックを国道から脇道に入れ、狭い林道のような所に止め、下半身を裸にされ、背後から肛門に軟膏も塗らずに太いチンポを入れられている時だった。

手足は縛られていなかったので、アイマスクを外して熊のような男を睨みつけた。

「だまっとれ、もう直ぐ痛みが無くなるから。」

運転手もズボンを脱いで下半身裸で田川の尻を犯してくる。

股間も当然だが、真っ黒い毛むくじゃらの足が田川の股を割って押し入って、勃起させたチンポを双丘の谷間を割り込ませ、挿入しようとしてくる。

「ちょちょっと待って下さい、痛いんです。」

運転手を払いのけようとしたが『バシッ、バシッ』と平手で田川の顔が打たれた。

「何するんですか、暴力は止めて下さい。」

「何が暴力だ、お前、密入国したんだろ、もっと痛い目に会うんだぞ、わかってんのか。じたばたするんじゃねぇ。」

なおも、菊門に亀頭を押し付けて挿入してくる。

『めりめり』と、菊門が音を立てて引き裂かれていくようだ。

「ま、待って下さい、痛いですから。」

「すぐに気持ち良くさせてやるから。」

「痛いんです。せめてオジサンのチンポを舐めさせて下さい。唾を付けないと無理です。」

弱った身体で、やっとの思いで日本に着いたのに最初の歓迎がコレでは堪らない。

「何だ、尺八してくれるのか。それは有り難い。歯を立てたり咬んだりしたら、即首絞めるからな。」

運転手の男は、嬉しそうにしながらも、田川がテカテカと黒光りするチンポを口に入れた後、噛み付いてくるのではないかと警戒して脅してくる。

「そんな事しませんよ、折角ですから僕も気持ち良くなりたいですから。」

「あっはっはっ、お前、若いのにケツマンコの経験があるのか、だったら仲良く楽しもうぜ。」

ケツまんこの経験に、若いも年寄りも無いだろうと思ったが、反論する意味も無いことだ、ここは身体が衰弱していて快楽などより飯を食べたかったが、取り敢えず男に従うことにした。

既に下半身を裸にさせている男の竿には、黒光りした竿の先がパックリ割れた尿道口を見せ、ビクンビクンと上下している。

その赤い尿道口からは、ダラダラと淫猥な先走りが糸を引いて垂れている。

竿の先を捏ねまわし、先走りを竿全体に塗りつけていく。外気が低いためか、舐めあげたチンポからは湯気が立っている。

「お、おお、坊主上手いな、そのまましゃぶってくれ。あ、ああ、いいぞ。」

男は、腰を田川の顔に押し付け尺八を催促してくる。

竿を根元から雁先へと舌で舐めていき、雁のくびれを一周するように巻きつけながら舐めていく。

数日風呂にも入っていないのか、汗と生臭い独特の臭いが鼻に付き、嗚咽しながらも舐めまわしていく。

尿道口に舌を突き刺し、ぐぐ、ぐぐっと差し入れていくと、男は腰を捩りながら奇声をあげている。

ハーモニカを吹くように唾を落としながらヌルヌルにさせ、数回竿の先から根元までを咥えて唇で扱いていく。

「坊主、もう駄目だ。入れるぞ。」

男は、田川をシートに上向きに押し倒し股を広げさせて体を入れてくる。

金玉の裏側にゴツゴツ当てていた竿をヌルっと菊門の方に滑らせ、プックリした蕾のような菊座を探り当てたようだ。

そのまま、竿を押し込んで来たが、雁がデカ過ぎて痛みが半端では無かった。

「オジさん、ちょっと痛いです。あ、ああ。」

男はニヤニヤ笑いながら、そのまま雁の頭を押し込んでしまった。

田川は、圧迫感の苦しさと、脳天まで走る痛みに失神寸前だった。

それでも男は、竿を根元まで突っ込んで直腸の奥を遠慮なく突っ突き、腰を前後に激しく動き出してきた。

それでも、この男が射ってしまえば開放される。そう思って歯を食いしばり痛さを我慢した。

「お、おお、い、い、良いぞ。」

仰向きに成っている田川の顔に、汗か唾かが降りかかってくる。腕で身体ごと抱き込まれ、荒い息遣いで口臭がまともに鼻先に吹き掛けられる。

顔を横に向けて逃げてみたが、熊男は、難なく田川の唇に吸い付き舌を差し入れ口中をドロっとした唾液を入れてくる。

タバコのヤニの苦味と、生臭い歯茎が、ガキガキ当たってくる。

しかし、冷えきっていた田川の身体には男の体温が伝わり心地よささえ感じてくる。

田川は、足を熊男の腰に巻き込み身体が密着するようにして身体の温もりを心地よく感じていた。

そろそろ射きそうな頃合をみて、肛門をギュギュ、ギュギュっと数回締めてやる。

「く、く、くく…。」

男の抽送が一段と早くなり、打ちつけられる金玉が、尻に当たり、それがペタペタと慌ただしいリズムを刻んでいる。

直腸の中の男の竿が一段と膨らんだようになり「お、おお、あ、ああ。」と泣き出しそうな声を出した。

射精が済んだのか、男が眉を寄せた顔をし、口から涎を流しながら身体を震わせ静かになった。

田川もそれに合わせてセンズリを掻きたかったが、体力も無く最初から萎んだままのチンポを扱いてみたが勃起しなかった。

「坊主、良かったぞ。この先に川があるからタオルを湿らせて来て拭いてくれ、急ぐんだ。」

どこまでも厚かましい男だ、汚れたチンポくらいは自分で洗ったら良いだろうと思ったが、言われるままに、川に降りタオルを湿らせてトラックに戻ってきた。

男のチンポを濡れたタオルで拭いてやっていると、萎んでいたチンポが再びムクムクと勃起してくる。

「何だ、坊主。また立って来てしまった。責任取ってくれ。」

「え、責任って・・・。」

「うん、疲れたから、今度は尺八で射かせてくれ。」

どこまで我侭なんだろう。ちょっと腹立たしいが、ここは黙って従った方が懸命だろう。

腹が減って眩暈すらするような状態だったが、ふてぶてしい黒光りのチンポに興味もあって言われるまま尺八で射かせることにした。

ほんの数分前に射精したばかりのチンポだったが、田川のテクニックによって、あっさり射精させてやった。

飛び出した精液を濡れたタオルで拭き取り、再び川に下りて洗っていたが、田川の肛門がムズムズしてくる。

男の精液を直腸に入れたままだったので、流れ出始めたのだろう。

ズボンを脱いで川の中に足首まで浸かり尻が水面に付かないように中腰で、リキんでみた。

『ドロドロ』と菊門から糸を引くように血が混じりピンクに近い濁った男の精液が出て来る。

それが澱んだ水面に垂れ下がり、濁ったままの塊になって、暫らく浮いている。

やがて淡いピンクの色が溶かされ、渦を巻くようにして長い形になって流されて行った。

タオルを洗い、顔を拭いて辺りを見回してみると、山間は紅葉が始まっているのに気付いた。

水の中の足元に紅葉した楓の葉が落ちてきて澱みに浮かんでいたが、やがてそれも流されていった。

大きく深呼吸してトラックに戻ろうとし土手まで這い上がってきたが、先程までココから見えていたトラックが居ない。

『置いていかれた』

そう思った時、田川の身体は崩れるように、その場に倒れ込んで気を失ってしまった。

身体に落ちてきた冷たい小雨に起こされて、目が醒めたときは、辺りはすっかり暗くなっていた。

舗装されていない林道は暗く、何度も躓き(つまずき)ながら国道まで出て来た。

そこから数台のトラックや乗用車をヒッチハイクして二日目の午後、自宅に帰りついた。

岬では、恵比寿神社の祭りがあっていて、境内では大勢の人で賑わっていた。

そのためか、道路には人影も無くバス停から自宅まで誰にも会わなかった。

驚かせようと自宅の玄関に忍び込むと、囲炉裏端(いろりばた)で、親父が肩を落として座り込んでいる後姿が見えた。

『はっ』とするほど、親父の後姿が、あの中国での老人の後姿に似ていた。

何も考えずに、無言で親父の背中に飛び掛り抱き締めていた。

吃驚した親父は、変わり果てた萬蔵の顔を見て、振り払って青ざめた顔で、マジマジと見直し、抱きついた萬蔵の身体から逃れるように離れ、両手を自分の顔の前で合わせて拝み出した。

「萬蔵、成仏してくれ…。」

「親父、俺死んでいないぞ。帰って来たんだぞ。」

親父を納得させるのに時間が掛かった。それは、港の集落の人たちを納得させるのも同じだったが、暫らくは英雄扱いされた。

田川萬蔵が乗っていた船は、船長が沈没した船から遺体を確認出来たが、他の乗組員も海面から数人の遺体が確認されただけで殆どが行方不明であった。

40年も前のことだが、昨日のことのように思い出される。

「田川さん、田川さんのご家族の方、ナースセンターに来て下さい。」

妻が運び込まれた病院の待合室の椅子で夜を明かした田川は、アナウンスの声に起こされ、ナースセンターに駆け込んだ。

医師の説明では、意識の回復はまだであるが、痛覚も有るので大丈夫だとのことだった。

時間は掛かるがリハビリをやれば、そこそこ不自由ではあるが動けるようになるだろうとのことだ。

今は、その診断を信じるしかない。自分の身体に奇蹟があったように妻にも奇蹟が起きて欲しかった。

ナースセンターから出て来た田川は、子供達に連絡していなかったのに気付き慌てて三人の子供達に電話を入れた。

集中治療室に入れられたままの妻を黙って見ていてもしかたない。そんな時、明日の新平との約束を思い出し、出勤して間もないから忙しいだろうと思ったが、取り敢えず『行けなくなった』ことだけを連絡した。

田川萬蔵から電話を貰った新平は、明日の計画がドタキャンされたのに少なからずガッカリしたが、帰宅してからでも詳しく聞いてみようと思った。

(14)

午後になって、現場のトラブル処理に出かけなければならなくなった。

「あ、上野です。臼杵さんですか。」

『やあ、上野さん。先日はお世話掛けました。ところで、どうしましたか。』

「時々、通勤の際に表通りから覗いて見ていましたが、いつもシャッターが降りていましたのでご病気でもと思いましたので。」

「ああ、息子夫婦が出て行ってから、昼間だけ仕事しています。言っていなかったでしたかね。」

「そうでしたね、お元気そうでそれは良かった。ところで、すみません、今日8時頃帰りますが、惣菜を何か見繕って2,3作っていていただけないでしょうか、帰りに寄りますので。」

『ああ、良いですよ。今夜のオカズですね。何かお任せメニューで見繕って作って置きます。好き嫌いは無いですか。』

「はい、何でも食べます。ちょっと帰りが遅くなりますので弁当でも買っても良いのですが、宜しかったらお願いします。」

『お疲れ様です。店は午後2時に閉めますが、奥で下ごしらえやっていますから、此の間の横の勝手口から声掛けて下さい。』

「有難う御座います、宜しくお願いします。」

『お礼は私の方でしょう。何時も有難う御座います。』

「はははっ、此方らこそお世話になっていますから。では今から現場に出かけますので。」

『あ、上野さん、明日は土曜日ですが、休みじゃないんですか。』

「はい、明日は休みですから朝寝坊する予定です。」

『だったら、今夜は、私の家で一緒に食事をどうでしょう、如何ですか。』

「私は構いませんが、今日は帰りが遅くなりますから、お邪魔でしょう。」

『いいえ、上野さんが来て下さるのでしたら何時までも待たせてもらいます。久し振りに、ご一緒していただけないでしょうか。』

「それでしたら喜んで伺います。でもちょくちょく寄ってたら居候決め込みますよ。」

『それは嬉しい。淋しいですから助かりますよ。』

「あっはっはっ、冗談ですよ。でも今夜はご馳走になります。」

上野新平(53)は、午後になって現場のトラブルがあって急遽出掛ける事になり、慌てて夜の惣菜を注文していたのだが、臼杵お爺ちゃんに誘われて嬉しくなった。

臼杵お爺ちゃんの声を聞いているだけでチンポが勃起するのは異常だろうかと苦笑しながら電話を切る。

現場の工事遅延のトラブルも解決し、臼杵お爺ちゃんを待たせているので会社に戻らず直退した。

何時もの駅は、午後八時近くにもなると乗降客もまばらで、駅前広場のタクシーもエンジンを切って手持ち無沙汰で客待ちしている。

以前から気になっていた好みのお爺ちゃん運転手に挨拶を交わしたくてそれと無く探して見たが、客があって営業中なんだろう。

ここからタクシーを利用することが無いので、挨拶だけ交わしていたが、居ないと淋しい。

それでも仕事が少なくなったと嘆いていたので喜んでやらないといけないだろう。

『景気が上向きだ』何て言っている経済界の人達には、こうした庶民の生活は見えていないだろうと思う。

「こんばんは、遅くなりました。」

「やあ、上野さん、お帰りなさい。寒かったでしょう、まだ八時前ですが無理して早く帰って来たんじゃないでしょうね。」

臼杵お爺ちゃんは、仕事着を脱いで紬(つむぎ)の和服姿で出迎えてくれた。

「わぁ、臼杵さん、お洒落って言うか粋な姿ですね。」

「上野さん、冷やかさないで下さい。偶には寛ぎたいですから。こんな時でもないと着れないんですよ。」

「良いですね、お似合いですよ。」

「有難う御座います。さあ上がって下さい。」

「はい、有難う御座います。でも、現場からの帰りなんで、帰宅して汗を流して来ますから。お待たせしてはと、ちょっと挨拶だけしてと思いましたので、すぐ戻ります。」

「何言っているんですか、風呂だったらココにもありますよ。」

「でも着替えたいし、ちょっと帰って来ます。」

「駄目です。着替えだったら、先日上野さんから借りて帰って来ましたから、お返しします。心配しないで下さい。」

「あはははっ、そうでしたね。あの時は洗って返して下さいだなんて言っていましたね。」

「そうですよ、さあさあ。」

臼杵お爺ちゃんに手を引かれて上がり込んでしまった。

「それでは遠慮なく先ずはシャワーを・・・。」

「上野さん、風呂は逃げたりしませんから、一杯飲んで腹ごしらえしてからにしましょう。」

風呂場へ直行しようとしている新平の腕を捕まえて、臼杵お爺ちゃんがニコニコしながら言ってくる。

「え、ああ、そうですね。それでは一杯戴きます。」

自分でも汗の臭いが気になっているくらいだから、食材を扱う臼杵お爺ちゃんには堪らなく臭いのではないかと気兼ねする。

しかし、ここは、お腹をすかして待っていてくれてた臼杵お爺ちゃんに従うことにする。

生ビールで乾杯し、一気に飲み干し椅子から立ち上がろうとしている新平の動きを又しても止められてしまう。

「上野さん、熱いのを食べてもらいたかったので仕込みだけしていました。お腹が空いたでしょう。揚げたてを食べて下さいね。」

臼杵お爺ちゃんは、紬の和服姿のまま真っ白のタスキを素早く巻き、菜箸で食材を器用に油が入った鍋に入れていく。

その手際良さに、流石に見とれてしまう。

「これの油を切って…と、直ぐに天露に浸して食べて下さい。」

「あ、はい。ふぅー、あつあつの掻き揚げって、本当に美味しいですね。」

勧められるまま、お爺ちゃんが出して来る揚げたてを口に入れていく。

「どうです、御飯も取って置きの新米です。今夜の為に米屋のオヤジに持って来てもらったんです。」

「うっわぁ、そんなに気を遣ってもらって申し訳ないですね。」

「上野さん、今夜は帰しませんからね。」

臼杵お爺ちゃんも椅子に座って御飯を食べ始めている。

「帰さないって、誘拐ですか。それは困りましたね、一応予定もありますから。」

「ははははっ。そうしたいけど、ご都合もあるでしょうから今度来ていただく時は、お願いしますね。」

「はい、是非お泊りして夜明かししてみたいですね。」

「上野さん、そんな事言うと本気にしてしまいますよ。お気持ちだけで嬉しいです。」

「ははははっ。お気持ちだけでは有りませんが、子供の頃、友達の家に宿題するからとお泊りしてトランプしたりマンガ読んでた頃が懐かしいです。」

「上野さんも子供の頃は不良だったんですね。」

「え、そんな不良だなんて、でも勇気ある冒険で懐かしいですね。」

楽しい食事を済ませシャワーを浴びさせてもらうことにした。

「あ、臼杵さんもご一緒にですか。」

「はい、我慢できませんでした。」

新平が洋服を脱ぎ終わらない内に、狭い脱衣場に和服を脱ぎ捨てたお爺ちゃんが、素っ裸で入って来た。

新平の目は、直ぐに臼杵お爺ちゃんのチンポに行ってしまう。

お爺ちゃんもそれを承知で、手で隠すことも無くぶらぶらさせ、新平が褌を外すのを待ちわびるように近付き抱き締めにくる。

「あ、ああ、気が早いですね。」

予期しなかったお爺ちゃんが入って来ての積極的な行動に慌ててしまう。

唇を押し付け、一気に舌を押し入れて口中を舐めまわして来る。

新平も、ちょっとよろけながらも臼杵お爺ちゃんの身体を捕まえ舌を受け入れ舐めまわす。

臼杵仙市(うすきせんいち)にとっては、40年も封印してきた男色の性癖を甦(よみがえ)らせてくれた上野新平と言うこの青年が愛おしくてならなかった。

妻を亡くし、細々とでも続けてきた惣菜屋も、息子の転勤で当てにしていた息子の嫁も居なくなった今、年老いて『ときめき』を無くしかけたときだった。

慌ただしく転勤が決まり浮かれた息子夫婦達と夕食後、惣菜屋の存続をどうしたものかと、一人寒い公園で悩んでいた時に出会った上野新平は、これからの自分の生き甲斐として希望を与えてくれた嬉しいものだった。

「ね、臼杵さん、あ、ああ、まだ身体を…、わ、わわぁ。」

新平を脱衣室の壁に押し付けて唇を合わせていた臼杵お爺ちゃんが、足元に座り込み、上向きに勃起した竿を咥えてきた。

臼杵は、汗臭い、それに僅かに残る小便の塩辛い味を舐めまわし恍惚状態で腰に回した両手で新平の尻を揉んでいた。

「臼杵さん、判りましたから、ちょっとシャワー浴びましょう。ここでは寒いでしょう。」

臼杵の頭を掴んで離そうとするが、力強い腕で一層引き寄せ尺八を黙々と続けてくる。

「う、うう、困ったな、あ、ああ、此のままでは、う、うう、射ってしまいそう。」

新平が身体を捻って逃れようとした時、臼杵お爺ちゃんの口から、一旦竿が飛び出し開放された。

しかし次の瞬間、上向きに勃起した新平の竿を上から捕まえるように齧(かぶ)り付き喉奥まで吸い込まれてしまった。

「ああ、ああ、駄目、駄目、あ、ああ。」

誘惑に弱い新平は、諦めて射精までいこうと思い直し、臼杵お爺ちゃんの頭を掴み、顔を天井に向け腰を前後させていった。

「う、う、お爺ちゃん、い、いい、良いです。ふ、ふ、ふ、ふっふぁー。」

新平が射精した精液を満足そうにゴクゴクと飲み込み、ニッコリ笑って、臼杵お爺ちゃんが立ち上がり、抱きついてくる。

「寒いでしょう。シャワーで温まりましょう。」

お爺ちゃんの手を引いて風呂場に入った。

「上野さん、ご免なさいね。前後の見境も無く寒い所で、我慢出来なかったのです。」

「はははっ、どうしたのかと心配でしたよ。」

「はい、自分でも判らなくなっていました。」

お爺ちゃんは、すっかり恐縮して項垂れ(うなだれ)たまま、新平が流してくれるシャワーの湯を浴びている。

「ちょっと狭い浴室で済みません。」

「良いじゃないですか。抱き合って浸かりましょう。」

お爺ちゃんを正面から抱いて一緒に腰を降ろしていくと、浴槽に張っていた湯の殆どが『ザァー、ザザァー』と派手な音で溢れ出てしまった。

二人とも裸のまま風呂上りのビールで乾杯し、手をつないで寝室に行き、万年床になっている布団に寝転ぶ。

暫らくして、どちらからとも無く唇を付けに行き、何時ものようにシックスナインで、互いの腹に精液を飛ばして終わる。

新平としては、ウケでもタチでもと、合体を望んではいたが、何となく遠慮してしまう。

それでも、臼杵お爺ちゃんの菊座を舐めてやると、身体を硬くしながらも喜んでくれた。

お爺ちゃんの薄くなった頭を枕代わりの腕に乗せてやり、時々唇を合わせにいって余韻を楽しむ。

「臼杵さん、お仏壇の横に小さなお位牌がありますが、飼っていたペットちゃんのですか。」

最初に訪問したときは気付かなかったが、真新しい可愛いお位牌が気になっていた。

「ああ、あれですか。気が付きましたか。今まで箪笥の奥に入れていたのですが最近出して置いていました。」

「箪笥の奥に仕舞っていたのを、最近出して来られたのですか。」

「ああ、家族に色々詮索されたく無かったので仕舞いこんで、長いこと忘れていました。」

「ご家族に内緒のペットですか。それともご家族が悲しまれるからですか。」

「あははははっ、ペットでは有りません。亡くなった友達の位牌です。時々思い出していましたが、ここ30年余り忘れていたんです。」

臼杵お爺ちゃんは笑い飛ばすように言っているが、時々言葉を詰まらせているようだった。

それに、薄っすらと涙さえ浮かべて天井を見ている。

「仲良しの幼馴染だったんですね。」

「ああ、幼馴染みたいなものです。40年前に仕事中に事故で亡くなりました。はっきりした名前も知らなかったのですが、乗っていた漁船の名前は聞いていましたから憶えていました。」

「船に乗ってって、漁師の仕事だったんですか。」

「はい、東シナ海で仕事していたようでしたが、台風で沈没して乗組員全員が行方不明でした。何人かの遺体は見つかったようでしたが。」

「全員ですか、それは可哀想に、残念でしたね。」

「うん、可哀想です。残念でしかたありませんでした。それで新聞やテレビで報道されたので合同葬儀に行きました。」

「その時、ご遺影で確認されたのですね。」

「ああ、確かにあいつでした。ニコニコ笑った写真でした。それで、こっそり位牌を買って来ましたが、名前もなくなった日も判りませんので何も書いていません。」

「その時、お名前は確認出来無かったのですか。」

「うん、臨席者が多くて遠くから眺めただけです。又思いだしてしまいました、もうこの話は止めましょう。」

「済みません、思い出したくない悲しいお話をさせてしまいました。でも良いお話でした。」

「いいえ、偶には思い出してやらないと、あいつも淋しいでしょうから。」

「愛されていたんですね。楽しかった思い出だけでも残してくれた人だったんですね。」

「ああ、愛していたのでしょうね。あいつが居なくなってから気付きましたけど。本当に短い間でしたが楽しい時間でした。」

「短かったんですか。」

「そう、出会ってから二ヶ月余りくらいでした。ドライブしたり温泉に行ったりしていました。口は悪いが優しい男でした。」

臼杵お爺ちゃんは、新平から手を離し後ろ向きになってしまった。悲しい別れを思い出させてしまったようだ。

しかし、新平は臼杵お爺ちゃんの友達が、田川お爺ちゃんで無かったことで、少し安心した。

「臼杵さん、お爺ちゃん。私には、その人の替わりは出来ませんが、時々思い出してあげて下さい。」

「上野さん、有難うございます。思ったとおりに上野さんは優しい人ですね。こうして居ると、あいつと一緒に居るみたいですよ。」

「そうですか、名前も知らない人から愛されて、亡くなったお友達も幸せでしょう。」

「今にして思えば、せめて名前くらいは聞いておきたかったです。」

「そうですね。その方にも名前は知らせていなかったのですか。」

「そうです、あだ名で呼び合っていましたからね。」

「良いお友達でしたね。お爺ちゃんのあだ名って何だったのですか。」

「あはははっ、私は、そのままです。臼杵ですからウスでしたよ。。」

「え、ウスって・・・、あははっ、ああ、臼杵さんですからね。だったら亡くなった人も・・・・」

新平は話をしていて、はっとさせられた。

そんな筈は無かったと、別人で、亡くなられて合同葬儀にも行かれたと、先程聞いたばかりだったが、言葉が詰まってしまった。

臼杵お爺ちゃんが寝返りうって、新平の方に向き直って抱きついてきた。

優しく抱き寄せ唇を付けに行ったが、新平の心の動揺は隠せなかったようだ。

「上野さん、どうしましたか。震えていませんか。」

「いいえ、そんなことはありませんけど・・・。」

唇を離したお爺ちゃんが、しみじみと新平の顔を見てくる。

「上野さん、顔色が悪いですよ。悲しんでくれているんですか。」

「あ、はい、悲しいお話でしたが、美しい思い出ですね。羨ましいですよ、顔色が悪いですか…、どうしたのかな、飲み過ぎたんでしょうね。」

「上野さんって、やっぱり優しい人だったんだ。それに口が悪かったらアイツそっくりですがね。」

「あははっ、そんな優しくないですよ。」

お爺ちゃんも喋りながらウトウトし始めたようだ。

「臼杵さん、今夜はこれで失礼します。明日は朝から一週間分の食料の買出しやら洗濯物がたまっていますので。」

「ああ、すっかり甘えてしまいました。お陰で久し振りに楽しかったです。また一緒に飲んで下さいね。」

玄関に降りて、お爺ちゃんを抱き寄せお休みのキッスをしていた時、新平の耳元で「タケ」って聞こえたようだったが気のせいでもあったのだろうか。

とっさに新平も「ウス」って囁いてみたが、お爺ちゃんは「うふふ」と笑って新平の体を一層強く引き寄せたが「タケ」と聞こえたのは、やはり気のせいだったようだ。

「帰したくないのですが。」

臼杵お爺ちゃんが、身体が離れる時、呟きにも似た悲しそうな言葉が、何時までも耳に残っていた。

玄関を出て暫らく歩いていたが、引き返して「タケ」って言わなかったかと確認したかったが、新平が知っている田川お爺ちゃんから海難事故に遭遇した話など聞いていなかったので思い直して、そのまま自宅に向かった。

(つづく)

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