上野新平シリーズ(第73話):地方訛りのお爺ちゃん(1)By源次郎


(1)

上野新平(53)は、久し振りの定時退社で、晩飯の惣菜を色々と電車内で考えていたが、レパートリーが限られているので大したメニューが思いつかないまま降車駅に到着してしまった。

結局、こうなったら駅前通りから路地に入った惣菜屋で調達するしかない。

惣菜屋がある路地の手前にコンビニストアーがある。ここも時々利用しているのだが入り口付近に若者が屯(たむろ)して入り難いことがある。

女の子が2、3人混じったりした中学生くらいの男の子だが、殆どが茶髪で、喫煙したり缶かペットボトルを手に、地べたに体育会座りやウンコ座りしている。

誰もが、そうであるように、この子達には言葉を掛ける事は無いし、また掛けたくもない。

別に因縁掛けて来たりするわけでは無いが、数人で足元から顔までジロジロ見られるのが嫌で入りそびれる事がある。

今日は、幸いこうした若者の姿が見当たらないようだ。

時間も早いので覗いて久々のヒットと騒いでいる演歌のCDでも買って帰ろうかと近付いて行って、そこの右側手前にも狭い路地が有るのに気付いた。

コンビニのバックヤード(倉庫)にでも行く通路かもしれない。
バイクが入るのが精一杯な広さしかない。

行き止まりでも無さそうだが一般には開放されていないようで、簡単な腰くらいまでの扉が取り付けてある。

奥の方を見ると若者が数人、後姿を見せている。誰かを取り囲んでいるようにも見える。

(何しているんだろ…)

そう思って足が止まってしまった。興味が有った訳ではなかったが、若者達の足元に座り込んでいる人影が見えたようだった。

良く見ると、若者の足元の人影の動きが変だ。上向きに寝転んだ男性が、二、三人にポケットを探られているように見える。

抵抗もせず大声出している様子でもないから喧嘩じゃなさそうだが何だろう。

「怪我した人でも居るんですか。」

腰高くらいの扉の前に寄って声を掛けてみた。

若者達の数人が一斉に振り返って見た後、「ヤバ、逃げろ。」と言って奥の方に走り去った。

寝転がされていた人影は、若者が立ち去ると、ゆっくり立ち上がりスーツのホコリを手で掃って新平の方に顔を向けた。

70前後でボサボサの白髪の老人だ。
瞬間可愛いお爺ちゃんだと助平心が騒ぎ出す。

ちょっと草臥れ(くたびれ)ているようで皺だらけのスーツを着ている。
足元を見ると不似合いなビーチサンダル履きだ。

一見、ホームレスの老人のようでもあるが、何となく気になる。

「大丈夫ですか、怪我でもされたのではないですか。」

老人は、新平に会釈して上着やズボンのポケットに手を入れて何かを探している。

通路の扉を開き老人に近付いて行って声を掛けた。

「何か盗られたのじゃないですか。」

老人の背後に回って背中やお尻の砂ゴミを払ってやる。

前に回りズボンの大腿部付近の砂ゴミを払い、序でに股間のモッコリさせた部分にも手の甲で触ってみた。

「あ、はい。財布が入っていた筈なんですが…。」

モッコリに新平の手が触れたのには気が付かなかったようだが軽く腰を引いて逃げたようにも感じた。

こんなお爺ちゃんのモッコリしたのを擦られたんだから新平は満足だった。

老人は浮かぬ顔でポケット全てを探し、何も持っていないのに気付いたようだ。

「オヤジ狩りだったのでしょうね。怪我はありませんでしたか、災難でしたね。そこの表通りに交番がありますから直ぐ届けた方が良いでしょう。一緒に行きましょうか。」

「はい、すみません。持っていたかどうかも判らないのですが、ここは何処なんでしょうか。」

「え、持っていたかどうか判らないって、どう言う事でしょうか。それに此処はD駅前ですよ。」

「D駅…、ですか・・・。」

「早い方が良いでしょう、取り敢えず交番に行かれたらどうでしょうか。」

何となく気が乗らない様子の老人を交番に連れて行き、簡単な目撃者調書をとられる。

不思議なことに老人は、被害届を書き加えてやっているおまわりさんに、住所氏名を聞かれていたが、口ごもってはっきり答えていなかった。

新平の目撃者調書と言っても、若者の人数もはっきり見ていなかったこともあり、又特徴も似たような若者の格好で詳しく判らなかった。

それで起き上がった老人に近付いて声を掛けただけだったから見たことだけを知らせて早々に帰宅した。

たまに早く帰宅出来ると思っていたが、アテ外れだ。

しかし、あの老人は『好きなタイプ』だったと思い出し、
『お仲間さんだったら』と苦笑いして夕食の準備に掛かった。

準備と言っても、交番で時間取られたので今夜は簡単に済ませることにして、出勤前に流し台に置いたままにしていた食器を洗っていた。

福島善吉お爺ちゃんの家の庭と新平の家の境にある垣根の扉が開いたので顔を上げたが暗くってお爺ちゃんの姿は見え無い。

『ペタ、ペタ、ペタ』

また、靴下履かないで裸足でサンダル履きでやって来ているようだが、交番での事を知っている筈は無いだろうしなんだろうか。

「新平。帰っていたのか。」

善吉お爺ちゃんが勝手口から入って来た。

「ああ、お爺ちゃん。今晩は、只今。」

「今から晩飯の仕度か。」

「はい、早く帰れると思っていたのですが、駅前で事件に巻き込まれて散々でした。」

「事件って何だ。喧嘩でもしたのか。」

「嫌だな、私は喧嘩しませんが、おやじ狩りを目撃したので調書とられていました。」

「おやじ狩りって、危ないな。コンビに前に屯している中学生だろ。あいつら以前にもやったが、同じグループかな。」

「同じかどうかは判りませんが、中学生だと思います、良く見ていなかったんです。」

「それは、災難だったな。おやじって老人だったか。」

「若くは無かったですね。70前後だったんでしょうが、訳ありの様子で、私が居た間、私の顔見て助けを求めるような目をして住所氏名を言わないんです。」

「はっはっはっはっ、目撃者も不審がられたんだろ。こいつ人相が悪い男だと思われたんだ。」

「そんな、助けてやったつもりだったんですが。」

「おい、ベッタラ漬け作ったから食ってみるか。」

「有難う御座います。今夜は、インスタントラーメンしかオカズが無かったんです。」

「何だ、相変わらず貧相な食卓だな。」

「貧相ですみませんね・・・、あれ、電話だ。タッパーは後で返します、お爺ちゃん有難う。」

電話の所に行き振り返ると、お爺ちゃんが流し台の洗物の残りをやってくれている。

「はい、そうです。・・・え、何ですか。引き取りに来てくれって意味が判りませんが。」

新平の大声に、何事だろうと、お爺ちゃんがタオルで手を拭きながら近付いて来る。

「判りました、取り敢えず伺いますが、引き取るなんて出来ませんよ。」

納得いかない交番からの電話で、首を傾げてしまう。

「どうしたんだ、おやじ狩りの仲間だとでも思われているのか。」

「そうじゃ無いのですが、変な事言い出すんですよ。」

「変な事?」

「嫌だな、納得がいかないんだけど、どう言う事だろ。お爺ちゃん、一緒に来てもらって良いですか。」

「どうしてだ、ワシは構わないが、様子が判らないのに付いて行ったが良いのか。」

「うん、電話の様子では何を言い出すのか判らないんです。傍で聞いていて下さい。」

善吉お爺ちゃんを連れて交番に来て見たが、おやじ狩りに合った老人は、記憶喪失者らしく、住所氏名も年齢も判らないらしい。

交番近くの開業医に簡単に診察してもらったが外傷も無く身体も健康だから入院とかも出来ないと言っている。

「病院で一過性の記憶喪失って言ったんだから、病気も怪我も無いんだし、二、三日くらいだったら面倒見てやれ。」

善吉お爺ちゃんに言われて連れ帰る事になってしまったが、警察も善吉お爺ちゃんも、ちょっと無責任にも思える。

「お爺ちゃん。昼間は相手してやってくれるんでしょうね。私は会社がありますから面倒見られません。大丈夫でしょうね。」

「ああ、昼間は老人会に一緒に連れて行ってやる。」

「でも、全く知らない人と同じ屋根の下に寝たくないですよ。」

「大丈夫だと思うが、困っているんだから、客間で寝てもらったら良いだろう。」

「それに、あの軽い訛りは何処でしょうね。南九州方面でしょうか。」

「そうだよな、北陸とか東北地方にも思えるが。」

新平と善吉お爺ちゃんが並んで歩いている後ろから、トボトボ歩いて付いてくる老人を時々振り返りながらコソコソ話しあう。

「爺さん、ここです。むさ苦しい所ですが遠慮なく入って下さい。」

善吉お爺ちゃんが、新平の先に玄関へ行きドアーの暗証番号を入力して開けている。

「お爺ちゃん、むさ苦しいは無いでしょう。結構広いし、片付いているつもりですが。」

「あっは、は、はっ、まあ怒るな、単に言っただけだ。」

オズオズと躊躇している老人の背中を押して玄関に入れている。

「すみません。お邪魔します。」

老人はビーチサンダルを脱いで善吉お爺ちゃんの後から付いて行き、さっさと居間に入って行った。

(どうなるんだろ・・・)

新平は、善吉お爺ちゃんに任せて大丈夫だろうかと不安になってくる。

遅れて居間に入ると、老人を居間の応接椅子に座らせて善吉お爺ちゃんは、急須にポットの湯を注いでいる。

「ゆっくりして下さい。今お茶を入れますから。」

「あ、すみません、構わないで下さい。」

老人は遠慮気味に浅くソファーに腰を降ろし、部屋の中をキョロキョロ見回している。

「さあさあ、熱いお茶でも飲んで落ち着いて。何にも気兼ねなど要らないんだから、自分の家だと思って嫌なことは忘れたら良い。」

善吉お爺ちゃんは、こんな人の扱いに慣れているのか、新平が手を出したり口を挟むことも無さそうだ。

「すみません、戴きます。」

老人は、両手で湯呑みを取って旨そうに音を立てて啜っている。

「ところで爺さん、何時頃から記憶があるんだろ。喋りを聞いた感じでは地方訛りがあるようだが、どうやって此処まで来たのか、その後どうしていたのかボチボチ話してくれんか。」

善吉お爺ちゃんは、老人の横に座って質問を始めた。

向かい合わせに座られるより話しやすいからだろう。さすが歳の功だ。

「あのぉ、お爺ちゃん。食事はまだなんでしょう。私も腹ペコなので一緒に如何がでしょうか。その後ゆっくり話を聞きましょう。」

「新平。どっちのお爺ちゃんだ。」

「あ、は、はっ、そうでした。お二人ともお爺ちゃんでしたね。だったら両方のお爺ちゃんに聞きます。」

「おお、もう八時過ぎているじゃないか、ちょっと待っていてくれ、婆さんには先に済ますように言って出かけたから。ワシの分が残っているだろうから持って来る。」

「え、ここにお住まいでは無いのですか。」

老人が不思議そうに聞きなおしてくる。

「ああ、ワシは隣に住んでいる。すぐ持ってくるから。おい新平。風呂の準備をして、爺さんに風呂に入ってもらっていてくれ。」

「そうですね。お爺ちゃん、すぐ準備しますから。えっと、着替えは私ので間に合いそうですね。」

遠慮する老人を説得して浴室に案内する。近付いて肩に手を置いて押してやる。

(何日も風呂に入っていないようだ)

近付いただけでむんむんと汗臭い。

「ゆっくり入って下さいね。その間に着替えを準備しておきます。」

着替えを準備して脱衣場に入ると老人が頭を拭きながら浴室から出て来ていた。

「あら、早いですね。ゆっくり入っていて良かったのですが、まだ食事の準備が未だなんです。」

「ああ、すみません。シャワーだけで済ませました。浴槽に浸かると眩暈がしそうになったんです。」

「あ、は、は、はっ、お腹が空いていたからでしょう。すぐ準備しますから、それと着替えは新しいのが無かったので申し訳ありませんが洗濯していますのでこれを着ていて下さい。」

「何から何まで済みません。」

老人は、消え入りそうな、か細い声で済まなさそうに答えてくる。

新平は、当然この老人のチンポに興味があったので、しっかり観察していた。

ずんぐりとした雁デカで、太いチンポだ、皮も綺麗に剥けているが何故か不気味なくらい黒い。

それに垂れ下がっている金玉がこれまたデカくって重そうな玉が二個、コロンコロンとしてぶら下がっている。

「それから着ていたスーツも洗濯に出しましょう。取り敢えず私のブルゾンとズボンを着ていて下さい。」

「あ、有難う御座います。」

新平は、老人の着替えが済むまで用事も無いのに見とれてしまっていた。

老人が着ていた下着は、アンダーシャツにサルマタだったが、新平が準備した越中褌を顔の前にかざして眺めて何の躊躇いも無くすんなりと着けていた。

「おぉーい、新平。大した晩飯じゃ無かったが、これを三人で分けて食べよう。」

善吉お爺ちゃんと奥さんの二人で、鍋ごと魚の煮たものや味噌汁それにマカロニサラダなどを持って来てくれた。

お爺ちゃんの奥さんは、老人が風呂から出て来たのをチラッと見て会釈して帰って行った。

新平が、持って来てもらった惣菜を注ぎ分けている間に、善吉お爺ちゃんが玉葱と生ハムを卵でとじ、タバスコで味を付けたのを作って加えてくれた。

「取り敢えず間に合わせで何にも無いので申し訳ないが、さあ食おう。」

善吉お爺ちゃんが先に食卓に座り、老人を横に座らせている。

「お爺ちゃん、お祝いでは有りませんが折角ですからビールで乾杯しましょう。」

新平が冷蔵庫から缶ビールを持って来て二人に渡す。

「どうも困ったな、二人のお爺ちゃんでは。」

「そうだな、爺さんの仮の名前を付けさせてもらおうか。なあ、どんな名前が好きだろうか。」

「私ですか、どんなって言われても・・・。」

「そうだな、鈴木さんとか佐藤さんだったら案外確率的には当たっているかもしれないがな。」

「そんないい加減な名前で呼んで良いんですか。あ、お爺ちゃん動かないで。」

新平は、善吉お爺ちゃんの顎と頬に付けた御飯粒を指でつまんで取ってやり、それを自分の口に入れて食べてしまった。

老人は、自分の口に箸で御飯を運びながら、そうした動作を、目をキョロキョロさせながら新平と善吉お爺ちゃんを交互に眺めている。

新平が心配して口を出したり、御飯粒を取ってやったが、善吉お爺ちゃんは、それを当然と思ってか、無視して腕組みし考えている風だ。

結局、善吉お爺ちゃんが『立花さん』と決めてしまった形になった。

理由は、近くにある橘(たちばな)神社の名前から浮かんだそうだが、反対する事も無かったので老人も賛成した。

「お、こんな時間だ。ワシ帰るからな、今後のことは明日話し合おう。」

善吉お爺ちゃんは、遅い夕食を一緒に済ませ、流し台に片付けた後、新平と食器を洗い終え帰ってしまった。

食事中は大した会話も無く、善吉お爺ちゃんと新平が交わす会話を不思議そうに眺めている立花お爺ちゃんだった。

(2)

「立花さん、お布団を敷きましたから休んで下さい。何かとお疲れだったでしょう。」

立花お爺ちゃんは、居間のテレビの方を見ているが時々何かを思い出そうと頭を抱え込んだりしている。

「立花さん。」

新平が、聞こえなかった様子の立花に、ちょっと大きい声で呼んでみると吃驚した目で振り返って見て来る。

食事をして落ち着いた風だったが、一人にしていると何かと不安になって来るのだろう。

新平にも判らないでも無かったが、突然の客でもない、どちらかと言うと居候者に戸惑いもあった。

どう対処して良いのかも不安だった。

「はい、お世話になります。休ませて戴きます。」

相変わらず、おどおどした立花お爺ちゃんを客間に敷いている布団まで連れて行き、枕もとの電気スタンドを点灯させた。

「パジャマも洗濯していますので、良かったらコレを着て下さい。ラジカセ置いておきますから眠るまで適当に音楽でも聞いて下さい。」

「はい、有難う御座います。」

立花は新平のパジャマに着替え、掛け布団を剥ぎ敷き布団に正座して土下座するように頭を下げてお礼を言ってくる。

「廊下と居間は電灯を点けたままにしておきます。私は居間の隣に寝ています。具合でも悪くなったら遠慮無く声掛けてください。」

新平は、明日の朝の味噌汁の材料を準備し、風呂に入った。

(どうなるんだろ)

ぬる目の風呂に浸かり、これからの老人との生活が何日位続くのかと考えていた。

気軽に引き受けた善吉お爺ちゃんを怨んでも仕方ないが、自分も反対もせず連れ帰ってしまい後悔しないではなかった。

いっそ男色の道に誘って同棲生活しても楽しいのではないかとも思ってみたが、そうそうは特殊な世界と見られている社会だ。

記憶喪失と言うのも病気の一種だし、そうした人を騙して生活していて、記憶が戻った時に怨まれたりしたら折角の人助けも無為になってしまうだろう。

善吉お爺ちゃんとの接し方も監視されているような状態では今迄通りにはいかない。

色々考えていたら眠れなくなってしまった。

居間に行き焼酎を取り出し、冷凍庫から氷を持って来てロックで飲み始める。

善吉お爺ちゃんが多めに作ってくれていたタバスコ味の玉葱卵とじをオカズにする。

『コトッ、ゴソゴソ』

客間からの音が聞こえた。立花お爺ちゃんも静かだったので眠ったと思っていたが、置き出して枕元に準備してやった水でも飲みだしたのだろう。

二杯目の焼酎のロックを作っている時、廊下で足音がした。トイレにでも行くのだろう。

『コン、コン』

遠慮深げに居間のドアーをノックしている。

「どうぞ、起きていますから入って下さい。」

オズオズとドアーを開けた立花お爺ちゃんが入って来たが、手に枕と毛布を抱えている。

「あらら、どうしましたか。」

「済みません、心細くって…、不安なんです。迷惑掛けませんから近くで寝せてくれませんか。」

これじゃ、幼児が母親の寝床にだだを捏ねて添い寝をしたがって来ているのと変らない。

「あっ、は、は、はっ、そうですか落ち着かないんでしょうね。宜しかったら一杯飲みませんか。」

「あ、私は良いのですが・・・。」

「良いじゃないですか、私も目が冴えて眠れなかったので飲んで居たんです。」

二人向かい合わせで焼酎を飲み始める。

気になって時々立花お爺ちゃんの様子をチラチラ見る。

お爺ちゃんは、旨そうにコップの焼酎を頭の上にかざして眺めたりカラコロ、カラコロと氷を鳴らして嬉しそうに楽しんでいる。

結構アルコールが好きなんだろう。
黙っていても、遠慮しながらも勝手にお代わり作って飲んでいる。

「あれ、こんな時間になりました。そろそろ休みましょう。お布団を運びますから手伝ってください。」

午前二時を回った頃、新平が立ち上がって客間に敷いていた布団を寝室に運び込んだ。

新平の後からお爺ちゃんは敷布団を肩に手には先程の毛布と枕を抱えて入って来た。

「あまり広くない部屋で、ガラクタが多いので窮屈ですが並べて敷いてみましょう。」

二つの敷布団が重なるようだったが、なんとか並べて敷いた。

布団に入ったが、隣に寝ている立花お爺ちゃんが気になって目が冴えて眠れない。

暫らくすると、微かに軽い寝息が聞こえだした。

きっと気疲れで眠ったのだろう。新平も安心して眠気がさしてきた。

これからどうした物かとの気掛かりな事があったが、それは会社から帰宅後に明日善吉お爺ちゃんと三人で話し合おう。

いつしか新平も寝入ってしまった。

それから幾らもしない内に隣の立花お爺ちゃんの啜り泣く声に起こされてしまう。

気が付かない振りで目を瞑っていたが、泣き声が段々と大きくなり、新平も可愛そうになり放って置けなくなってしまった。

立花お爺ちゃんの掛け布団の端を持ち上げ、身体を滑らすようにし、背中を向けている所まで寄せていく。

無言でお爺ちゃんの背中を擦ってやっていたが、お爺ちゃんの身体の震えが大きくなって来た。

背後から身体を密着させて、しっかり抱き込んでやる。

「すみません。」

泣きじゃくりながら、お爺ちゃんは手で涙を拭いて、か細い声で謝っている。

「何も謝ることは無いんですよ。不安なんでしょうね。私の方は、ご覧の通り一人暮らしだし構いませんから記憶が戻るまでゆっくりして良いんですよ。」

新平も貰い泣きしたくなる。お爺ちゃんを抱いていた手を強め引き寄せてやった。

お爺ちゃんの、項(うなじ)の伸びた髪が鼻先にムズムズさせる。

気付かれていないと思うけど、この時点で新平のチンポが勃起して、お爺ちゃんの太腿の裏に当たっている。

お爺ちゃんが突然寝返りうって、新平の方に向き胸の中に顔を埋めて抱きついてきた。

その時、お爺ちゃんの手の甲が、新平のチンポに当たったようであった。

咄嗟に新平は腰を引いて勃起しているチンポに気付かれないようにした。

右手を腕枕にしてやり、左手で背中を擦ってやる。

しかし、腰を引いたままでは身体が不自然な格好で疲れてくる。

勃起していたって構わないだろう。お爺ちゃんに腰を付け片足を挟むように交差させて抱き合ってしまった。

お爺ちゃんも、気付かない筈は無かっただろうが、されるままに足を絡ませるようにして抱き締めてくれた。

やがて、お爺ちゃんの啜り泣く声も聞こえなくなり、また軽い寝息が聞こえ出した。

安心したのだろう。新平も勃起しているチンポの納まりをそれとなく直し眠りについた。

熟睡できない夜だった。目を覚まして横を見たが、立花お爺ちゃんの姿が見当たらない。

敷いてやってた布団も無い。昨日のことは夢だったのだろうか。

布団の中で、天井を見上げたまま、昨日の帰宅中に「おやじ狩り」に合っていた事件は、その後の善吉お爺ちゃんと交番に行ったことも夢だったのだろうか。

そんな筈は無いのだが、隣に寝ているとばかり思っていたお爺ちゃんの姿が無い。

布団から起き上がろうとして、足元に半分脱ぎかけたパジャマのズボンが気になった。

褌の前垂れも引き抜いて哀れな格好で、チンポが剥き出し状態だった。

こうしたことは、時々あったが、今朝のチンポを触った感触が何時もと違う。

何となく湿り気があり、射精後の感じがする。この歳で夢精でも無いだろうと、そっと手で触って扱いてみる。

そう言えば今朝方不思議な夢を見ていたことを思い出した。

霧が立ち込めた大きな湖の畔を歩いていて見知らぬ老人に声を掛けられた所から始まった。

その老人は、どこかで会ったようでもあるが顔が良く見えない。

それでも老人は、ニコニコ笑って近付いて来ている雰囲気だった。

傍まで来て老人は無言のまま新平の手を引いて霧の湖畔を歩き出した。

何時の間にか、分厚い絨毯が敷かれた部屋の中に入って大きいベットの傍で二人とも素っ裸で抱き合い、口付けしている。

老人は、決められたシナリオを片付けるように、淡々とことを進めて行く。

新平の身体を抱き上げ、ベットに仰向けに寝せ股間に顔を埋めて尺八を始めてくる。

その老人のテクニックに新平は、ただただ恍惚状態で声も出せない。

竿の先走りを舌で掬って唾液と一緒に全体に塗り拡げ優しく扱いてくれている。

その内頭を上下させ黙々と尺八してくる。

(あ、ああ、駄目だ。このままだと老人の口の中で爆発してしまう)

老人の頭を掴んで離そうとするが、吸い付いたように離そうとしない。

(あ、ああ、お爺ちゃん。駄目だって、あ、ああ)

どうしても声が出せないまま、新平のチンポが一層膨らみ老人の口の中に射精してしまった。

射精後の気だるさを感じながらも、再び湖畔に立っていた。

立ち込めていた霧は相変わらずで、周囲の景色も漠然としていてはっきりしなかった。

あの老人は、何処に消えたのだろうか。

そう思って付近を眺めまわし、鴨が数羽水面から飛びたったところで目が醒めたようだ。

まだ眠い目を擦りながら洗面を済ませ、最近は滅多に朝から作らない味噌汁を作る。

立花お爺ちゃんは、寝具を客間に運んで寝たのだろうと安易に考えていたが、起き出してこない。

和室の前の廊下から声を掛けて見たが返事が無い。

(死んだ? まさか・・・)

障子を開けて客間に入って驚いた。枕元に置いていた水差しや電気スタンドは、床の間前に片付けられ布団も押入れに仕舞われている。

まさか出掛けたってことは無いだろうにと思ったが、昨夜寝る前に施錠したはずの勝手口の内鍵が開錠されているのに気付く。

(散歩だろうか・・・。まさか、記憶喪失を装った泥棒かも・・・。)

一人朝食を済ませて、立花お爺ちゃん用に準備した食事に新聞を被せ、自分の食器を流し台に持って行く。

食器洗いのボールに水を入れている時に、垣根の扉を開けて新平の家に向かって来ている善吉お爺ちゃんの姿が見えた。

「新平、おはよう。」

勝手口の暗証番号を入力して善吉お爺ちゃんが入って来た。

「お爺ちゃん、おはよう御座います。」

「どうした、眠れたか。例の…、誰だったかな、老人は起きて来たか。」

「お爺ちゃん、無責任だね。自分で名前を付けていて忘れたのですか。立花さんでしょう。」

「うん、忘れていた訳ないだろう。その立花さんは見えないじゃないか。」

「そうなんです、起きたら居なかったんです。」

「居なかったって、新平。お前こそ無責任じゃないか。それで、夕べは大人しく寝たのか。」

「大人しくって、どう言う意味ですか。お爺ちゃん、何か誤解していませんか。」

「そうじゃ無い、喧嘩したりしなかったかって聞いているんだ。」

「喧嘩はしませんが、二時頃二人で軽く焼酎飲んで寝ましたが変った事感じませんでした。」

「何か、盗られた物は無いか。」

「ここには盗られるような物は有りません。あの人の草臥れたスーツと汗臭い下着は昨夜脱いだままです。あ、私のブルゾンとズボンが有りません。夕べ着せていた物です。」

「あっはははっ、盗られる物が無かったんじゃ泥棒もがっかりだったろうな。」

「なに笑っているんですか。あ、遅刻しますから、後は宜しく。」

「後はって言われてもワシは老人会に行くから留守するんだがな。」

「出て行かれてホットしましたよ。可愛そうだってけど、あまり係わりたく無かったですから。では行って来ます。」

「ああ、車に気をつけてな。」

善吉お爺ちゃんの聞きなれた『車に気をつけて』を聞いて家を飛び出してきた。

何時もの満員電車に乗り込み、吊革に掴まり目を瞑って昨夜のことを思い出していた。

このまま、あの立花お爺ちゃんが消えてくれれば、また何時もの生活に戻れる。

そう願っていたが、明け方の夢が生々しく思い出されてチンポが勝手に勃起してくる。

それと同時に、立花お爺ちゃんの、あの雁デカで真っ赤な亀頭を思い出して更に勃起を助長させてくる。

(美味しそうだった、残念だったな…)

それにしても、どうして黙って出て行ったんだろう。あんなに礼儀正しくお礼を言ったりしていたのに。

また戻って来てくれるだろうか。いや、それはご免だ。

慌ただしい朝のラッシュのコンコースを足早に改札を出て会社に向かった。

(つづく)

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