上野新平シリーズ(第91話):玄界灘のお爺ちゃん(1)By源次郎


(1)

代理所長の職務から解放され、再び支社での勤務に戻った上野新平(53)だったが、今日も冴えない顔で机に座っていた。

自宅に戻ったのが三日前だった。善吉お爺ちゃんをサプライズ(吃驚)させようと帰宅するまで連絡せずにいたが、隣の福島善吉お爺ちゃんの家の電灯が点いていなかった。

(どうしたんだろう・・・、まさか入院したのではないだろうか。もしそうだったらお爺ちゃんだろうか、それとも奥さんだろうか・・・)

そのことが心配で、食後の酒も不味く、また先月購入したDVDも見る気がしない。

家を空けるなら連絡くらいしてくれたら良いのに、ここのところ電話も無かった。

昨夜降った雨で、お爺ちゃんの家の庭の草木が水をたっぷりに吸って葉っぱが重そうに見える。

その庭を真っ赤なゼラニュームの花で賑わせている。ついている花の数がたくさんで、葉っぱの色も緑が鮮やかだ。

この花は、新平が引っ越してきた頃、さし木で根がついたからと言って、お爺ちゃんが自慢そうに肥料を与えていたのを思い出す。

郵便受けには、新聞が入っていないところを見ると、販売所に連絡して“空き巣予防”に配達を止めて出かけたのだろう。

今夜もお爺ちゃんの家の電灯は消えている。お爺ちゃんの携帯に何度も電話を掛けてみるが“電波の届かない場所に居るか電源が切られています・・・”との空しいメッセージが聞こえてくるだけだった。

新平にとって、今や善吉お爺ちゃんの存在は全てである。仕事が手につかない状態の毎日だった。

夫婦で娘さんの所に行っていたとしても、三日も家を空けることは無いだろう。

現場から急ぎで催促されている施工図作成の依頼もあったが残業もしたくなかった。

それで早めに帰宅したのだが、夕食を作る気が重く、取り敢えず風呂に入り漠然と天井の水滴が落ちるのを眺めていた。

通勤途中の満員電車の中でも、会社の中でも、昼食事に外に出て食堂に入っても“あ、善吉お爺ちゃんでは・・・”と耳をそばだてて聞いてしまう。

居る筈のないお爺ちゃんの声に聞こえてくるのは何故なんだろう。こうした状態で居ると気が変になってくる。

少々ノイローゼ気味になっている。だからと言って近所の人に聞きに行く気はない。

野菜の炒め物をしていると、油が跳ねる音さえもが、善吉お爺ちゃんの声に聞こえてしまう。

「新平、帰っていたのか・・・。」

そんな声が聞こえたようだったが、“またまた、幻聴だ・・・”と、無視して鍋から炒めた野菜を皿に盛り付けていた。

(くっそぉー、ウスターソースをきらせていたんだ・・・)

退社後に、コンビニに寄って買い物しないといけなかったんだ。今朝出勤時にメモしていたことさえ忘れていた。

「新平。なに怒っているのだ・・・。」

善吉が新平の傍に近づき、皿に盛られた野菜の炒め物を覗き込みながら耳元で聞いてみた。

長い菜箸で野菜炒めを移し終え、フライパンの淵を“コンコン”と叩きながら、声の方を見た。

(嫌だな、幻聴だけで済まず、幻覚まで見えてくるようになってしまった。最悪な状態だな・・・)

新平は、善吉を一瞥し、舌打ちしてフライパンを流しに置こうと、二・三歩あるいて立ち止まり振り返って“しみじみ”見てきた。

(あれっ・・・、幻覚では無いようだ・・・)

善吉は、新平の態度が理解できず、ぼんやり突っ立って新平の動きをみていた。

振り返ってみて来た新平の様子がおかしい。目はうつろで、いつもの笑顔が無い。

「新平。具合でも悪いのではないのか・・・。」

「・・・・・・・・・、お爺ちゃん・・・。」

新平は、片手鍋を流しに放り投げ、駆け寄っていって善吉に抱きついていった。

(やっぱりヘンだ・・・、身体を震わせている。熱でもあるのではないのか・・・)

善吉は、新平に飛びつかれ、倒れそうになるのを踏みとどまって新平の身体を受け止め抱き締めてやったが、身体が震えているのが伝わってくる。

新平が落ち着いた様子だったので、肩に乗せている新平の顔を起こし、額に手を持って行って熱を測ろうとして顔を見た。

「新平。泣いているのか・・・、どうした涙なんか・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「おやっ、口もきけなくなったのか・・・。う、うう、うっ・・・。」

薄っすらと涙さえ浮かべていた新平が、突然善吉に唇を付けて吸って来た。

「う、うう、分かったから・・・、おい新平どうしたのだ・・・。」

「お爺ちゃんのバカ、三日もの間、連絡もしないで、どこに行っていたんですか、心配していたんですよ。」

「わっははっ、そうか心配掛けたか。すまんすまん、あっはははっ。」

「笑い事では無いでしょう。」

「うん、悪かった。実はな金婚式の祝いを何年だったか前、子供達にしてもらっていたんだ。その時、アメリカ横断ツアーの費用をだしてもらっていたのだが、のびのびになっていたので有効期間が切れるとかで急に思い立ったんだ。」

「そうだったのですか。おめでとう。でも黙って行くことはないでしょう、餞別くらいはさせてもらいたかったのに。」

「その代わり、みやげは忘れなかったから許してくれ。」

「駄目です。お仕置きです。それで奥さんは・・・。」

「ああ、すっかり草臥れてな、帰宅したら風呂にも入らず“バタンキュゥ”だ、あっはっはっ。」

「笑い事では無いでしょう。奥さん大丈夫ですか。」

「ああ、あいつのことだから、一晩寝たら明日っから土産物配りで忙しくなるはずだ。成田空港から山ほど宅配頼んでいたから。」

「それで、お爺ちゃんは風呂には入ったのですか。まだでしたら私が背中を流しますから、ここで入って下さい。マッサージ付です。」

「それは嬉しいなぁ。風呂の掃除の手間が省ける。それじゃ着替えて来るから飯でも食って待っていてくれ。」

(全く人騒がせなお爺ちゃんだ。でも心配していたのは自分だけだったようで・・・恥ずかしい・・・)

人が変わったように元気を取り戻した新平は、最近では珍しく、ご飯のおかわりまでして夕食を済ませた。

脱衣場で、善吉お爺ちゃんと一緒に服を脱ぎ、先に浴室に入って行こうとしているお爺ちゃんを引き止める。

「風呂に入る前に、綺麗にしてから入りましょうね。」

そう言って新平は善吉お爺ちゃんの足元に腰を落とし股間に顔をつけ、白いものが多くなった茂みに頬擦り、皺くちゃな萎んだ“ちんぽ”を咥え込み舌先を絡ませ吸い込んでいく。

「何だ・・・、お、おお、ちょっと待て・・・、新平慌てるな、あ、ああ・・・。」

善吉お爺ちゃんが逃げようとする腰をしっかり掴んで身動き出来ない状態でしゃぶり続ける。

「ふっふふ、新平・・・、分かったから早く浸かろう・・・。」

お爺ちゃんに催促され、仕方なく立ち上がり、唇を吸いに行く。

(あ、ああ、新平・・・、久し振りだったなぁ・・・)

善吉も新平の背中に腕を回し勢い良く吸い返してくる。

新平が落ち着いたのを見計らって手を引き浴室に入っていく。

「ああ、やはり日本の風呂は最高だな。一週間もの間、アメリカの風呂では疲れが取れない。あっちの風呂ってまるで棺桶みたいだったぞ。」

「あっはははっ、棺桶は良かったですね。」

「お、新平が笑った。良かった、良かった。機嫌を直してくれたんだな。どうなるかと心配だった。」

浴槽の中で、向かい合わせに座り、新平に抱かれていた善吉も、ホッとして唇を突き出してきた。

“べろんべろん”と新平の顔を舐めまわし、その舌先を割り込ませるようにねじ込んでくる。

「あ、ああ、お爺ちゃん。やっぱり私はお爺ちゃんが傍に居てくれないと生きていけない。」

「うっふふ・・・、新平、それって、こんな爺を相手に“好きだ”ってことを告白しているのか。」

「お爺ちゃん。好きだって段階ではありません。愛して、愛してしまったんです。」

「おお、そんな歌の文句があったな。新平、ワシも同じくらい愛しているぞ。」

浴槽内での長い口付けだった。その間、新平は善吉お爺ちゃんの存在を改めて有難く感じ取っていた。

それは、父であり、母であり、また時には空気でもあった。何気ないお爺ちゃんの愛情を受けている自分が、この上なく幸せ者だとしみじみと感謝し涙していた。

どちらからともなく、浴槽内の二人の手は互いの股間を弄り目的の“ちんぽ”を掴み扱きあっている。

「おお、新平のは相変わらず元気があるんだな。」

善吉は、新平の竿先から根元までをゆっくり扱きながらニコニコしている。

「あっれぇ、お爺ちゃんどうしたのですか、アメリカ帰りでお疲れかと思っていましたが、何ですかギンギン硬くして・・・。ははぁーん、ロスででもいい人と出逢って楽しんで来たのでしょう。」

「何をいいだすんだ、ワシは旅行中、二度だったか“せんずり”かいただけだ。目が青い男は好きになれない。」

「それにしても元気過ぎます。」

新平は、期待した以上に硬くなり始めている善吉お爺ちゃんの“ちんぽ”をいとおしく愛撫した。

「うんうん、ワシも驚いている。疲れマラとも言うからな。あっはははっ。」

善吉お爺ちゃんが新平の首に腕を巻きつけ、唇をつけ舌をねじ込むように入れ絡ませてくる。

そのまま、善吉お爺ちゃんを抱かかえ洗い場の椅子に座らせる。

頭を洗い背中を流してやった後、お爺ちゃんの前に座り込み、股間に泡立て、“ちんぽ”と金玉を揉むようにして洗っていく。

足先までを洗い終わって体に湯を掛けてやっていると、お爺ちゃんが顔の雫を両手で拭き新平を見上げてくる。

「おい新平、今夜はそれだけで終わりか。」

何か物足りなさそうに言ってくる。

「そうです、お疲れですから今夜は早めに寝て下さい。」

「少々疲れてはいるが、久し振りに新平に会えたんだ、このままでは眠られない。」

「駄目です、奥さんが目を覚まして帰ってくるのを待っていますからね。」

「ババァは、一旦寝たら強盗が来ても起きない。」

「あっはははっ、そんな強盗なんて来た事無いのに分からないでしょうに。」

「だったら、新平のをしゃぶってから帰る。な、な、いいだろう。」

「私も今夜は疲れて・・・、あ、ああ、お爺ちゃん・・・、あ、ああ、い、いい、気持ち良いです。」

善吉が、洗い場の椅子に座ったまま後ろを振り返り、目の前の新平の勃起した“ちんぽ”の根元から雁先へと手も使わずに舐め上げ“ぱくっ”と咥え込んで尺八を始めてしまった。

「お、お爺ちゃん。無理しなくって良いんだから・・・、あ、ああ・・・。その辺で・・・、あ、ああ・・・、ね。」

「駄目だ、抜くんなら抜く。抜かないなら・・・、それでも抜く。途中で止めると嫌だろう。」

お爺ちゃんが本格的に顔を前後に動かし、新平はお爺ちゃんの薄くなった頭へ両手を軽く乗せ、腰を前後させていく。

「あ、ああ、お爺ちゃん。い、いい、気持ち・・・、あ、ああ、良いです。あ、ああ・・・、どうしよう・・・。」

「うんぐ、うんぐ・・・。」

「う、うう、あ、ああ、お爺ちゃん・・・。」

新平は天井を仰ぎ目を瞑り、足をブルブル震わせながら思いっきりお爺ちゃんの口腔内に精液をぶち込んでいった。

善吉は、新平の精液を口の中に一旦溜め込み、敏感な亀頭部に唇を付け、ダラダラと吐き出し竿全体に塗りつけ、さらに金玉にもまぶすようにヌチャヌチャ塗りつけていく。

「お、お爺ちゃん・・・、そ、そんな・・・、あ、ああ、拷問みたいなことを・・・、あ、ああ・・・。」

口と手で、唾液が混じった精液を塗りつけた後、やおら立ち上がって新平の乳首にヌメヌメした掌で摩ってくる。

「あふ、あふ、お、おお・・・。」

新平は、身体を痙攣させ立って居れない状態になり、お爺ちゃんの身体を捕まえ身体を立て直し、唇を吸い付きに行く。

「あ、ああ、どうなるかと・・・、お爺ちゃん。強烈過ぎます。」

抱き締めた腕をさらに力を込め、お爺ちゃんの顔を舐めまわすだけでは足らず、鼻や耳を噛みに行く。

「あ、新平。駄目だ・・・、な、なな、今夜は遠慮するから・・・、あ、ああ。駄目だって・・・、あ、ああ・・・。」

「お爺ちゃん、片手落ちでしょう。このままでは済みません。」

新平が、善吉を浴槽内で立たせ、股間に頬ずりし“ちんぽ”を咥え込むと“しゃくしゃく”と尺八を始める。

「あ、ああ、新平。ワシ疲れているから、あ、ああ・・・。」

そう言いながらも、踏ん張るように足をひろげ、新平の肩に両手でつかまり腰を前後させてくる。

「疲れと愛し合うことは別のものです。それにお仕置きもしないといけませんからね。」

「うん、うん、分かった。あ、ああ・・・。あれっ、新平・・・、射きそうだ、あ、ああ、な、なな、出る、出る・・・、あふ、あふ・・・。」

「お爺ちゃん、そうとう溜め込んでいたんですね。ときどき抜いてやらないと病気しますよ。」

新平は、久し振りに善吉の精液をたっぷり喉奥に受け、“ごくごく”喉を鳴らして飲み込んでいく。

「うふふ・・・、一人では、なかなかその気になれんのでな。あ、ああ、気持ちよかった、有難う。」

二人で抱き合って浴槽に浸かり、互いの身体を洗い流す。

「新平、明日の土曜日は休みか。」

勝手口に降りたお爺ちゃんが、ドアーノブに手を掛け振り返って聞いてきた。

「うん、明日は郊外のショッピングセンターに買い物に行きます。」

「そうか、だったらワシも一緒に連れて行ってくれるか。」

「はい、喜んで、お手伝いしてもらいます。」

「久し振りに新平とショッピングができるな。そんじゃおやすみ。」

善吉お爺ちゃんが帰った後も、新平は身体の隅に絡んだ残りの火種が消えていなかったようで、寝付かれなかった。

(2)

数日後、新平は地震災害で壊滅状態になった玄界灘の小さな島に、復旧建設の応援のために出張で船に乗っていた。

住民の一部は、まだ復旧建設が間に合わず仮設住宅で生活している。

船が港に入り、船内に接岸準備作業に入ったことが放送されている。新平は、書類や着替えの洋服を詰め込んだキャスター付の旅行鞄をゴロゴロ転がしながら出口に向かう。

桟橋まで数メートルに近付いたころ、船首に立っていた船員が艫綱(ともづな)を投げた。

それを、桟橋で待っていた男が慣れた手つきで受け止め、太い鉄の杭にクルックルと手早く巻きつけていく。

桟橋で艫綱を受けた男に目がいく。

(おお、素敵なお爺ちゃんだ。島に滞在している間に一度は会話してみたいな・・・)

桟橋に降り乗船待合室までのスロープになった橋を渡る手前で先程のお爺ちゃんの姿を探したが見当たらない。

貨物の積み降ろしでも手伝っているのだろうか。二・三週前出張で訪れた島の桟橋で荷役のボランティアしていたお爺ちゃんを思い出していた。

桟橋から橋に移ろうとしてトランクのキャスターを橋の隙間に引っ掛けてしまった。

ロープをキャッチしたお爺ちゃんの姿を見たくってキョロキョロしていたので段差の隙間に挟み込んでしまったのだ。

船を降りた客が、慌しく新平を邪魔くさそうに薄笑いを浮かべながら追い越していく。

中には、気の毒そうに“自分が取ってあげられないか”と腰を曲げて覗き込んでくれる人もいたが、“こりゃ駄目だ”とばかりに顔を強張らせながら微笑んできてくれる人もいた。

簡単に引き離されると思ったが、車を取り付けている金属の座板が食い込んでしまっている。

船を降りた客が出て行ってしまったあと、大勢の乗船客が、ゾロゾロと入れ違いに桟橋に降りてくるので焦ってしまいキャスターが深く食い込んでしまった。

こうなるとお手上げ状態だ。簡単には金属の座板を折り曲げたりしても外せないようだ。

プライヤーでもあったらどうにかなりそうだが、そんなものが近くにある筈もない。

戸惑って“どうしたものか・・・、いっそキャスターを壊してはずそうか”と悩んでいる新平に背後から声を掛けられた。

「お客さん、そんなことしたら駄目だ。こねたらキャスターが壊れてしまう。」

新平が気になって探していたお爺ちゃんが、船から荷物を肩に担いで降りてきていた。

“ちょっと待ってろ。”そう言い残し、荷物を担いだまま駆け足で待合室の中に入っていった。

(ふぅー、あのお爺ちゃん、何か道具でも持ってきて貸してくれるのだろうか。それにしても、見られていたんだ・・・。ちょっと恥ずかしい・・・)

間もなく、お爺ちゃんが長いバールと角材を持って来て、無傷の状態で橋の下に食い込んでいたトランクのキャスターを取り外してくれた。

たまに、こうした事があるのだろう。慣れた手付きだ。

お礼を言ったとき見つめてきた真っ黒い澄んだ瞳がキラキラ光っていて新平の心を揺さぶった。

無言のままニッコリ微笑んでうなずいてくれたお爺ちゃんの汗だくの顔を舐めてやりたい想いだった。

黄色く変色したランニングシャツも汗で濡れ、それが身体に密着し乳首の形を見せている。

70前後だろうが、鍛えられた肉体だと思われる。盛り上がった肩から太い二の腕がそれを物語っている。港湾労働を長年続けてきたのだろうと勝手に想像する。

長く見つめているのもおかしいので、その場を後にし作業現場事務所に急いだ。

(名前くらい聞いておけば良かった・・・)

現場の進捗状況を聞きながら新平の気持ちは、桟橋で出逢ったお爺ちゃんの顔を思い浮かべ、ここでの滞在中に是非会ってお礼をしたいものだと考えていた。

「上野主任、以上ですが何せ突貫工事ですから計画通りには進めないでしょうが、そのあたりは臨機応変に指示して下さい。なんとか都合つけて協力して行きたいと思っていますので。」

関連会社から急遽派遣されている副主任が説明してくれた。

「うん、わかった。宜しく頼みます。ところで、宿舎はどうなっているんだろ。取り敢えず荷物を置いて着替えたいんだけど。」

「そうでしたね。私たちは、ここの一階の倉庫の奥の仮設の三段ベットになっていますが、主任は二階に部屋を作っています。狭いですが机も入れています。」

「そんな気は遣わなくて良いんだがな。それでは着替えを済ませてくるからその後、関係業者の挨拶にまわりましょう。」

プレハブの二階建て現場事務所の奥に新平の部屋が準備されていた。四畳半くらいの部屋で、仮設ベットと机があるだけの殺風景な部屋だったが、派遣社員のおばちゃんが気を利かせてくれたのだろう一輪挿しに赤い花が生けてあった。

地震災害後、直ぐに仮設住宅がつくられ、整地が済んだ場所から先に公営アパート建設が始まっていた。

残業の後、準備してもらった食事を済ませ、しばらく翌日の施工段取りを計画し風呂に行く。

現場事務所にも風呂を作ってあったが仕事を終えた現場員が順番を決めて利用していたので、新平は少し歩いたところにある公設の仮設浴場に行くことにした。

散歩をかね、周囲の景色や施設の場所を確認したかったためだが、新平には島のお爺ちゃんたちとの会話がしてみたかった。

「主任。公設浴場は午後九時までですから急いだ方が良いですよ。」

副主任の声を背後から聞き、振り返らずに片手を挙げ“了解”の合図を送る。

(まだ三十分以上もあるから・・・)

そう考えていたが浴場に到着したときは、すでに八時半を回っていた。

終湯(しまいゆ)に近かったので脱衣室には、浴槽からあがって来た数人が服を着ていが、それでもまだ浴槽には四・五人の客が入っている。

急いで服を脱ぎ浴室に行く。意識した訳ではないが浴槽に浸かっている人達が一斉に新平を見てきているような気がする。

(なんだ、若い兄ちゃん達ばかりだ・・・、がっかりだな・・・)

浴槽の湯で掛け湯をしていると背後から誰か近付いてきている。

「遅いんだな・・・、急がないと湯を落とし電気消されるぞ。」

「は? 湯を落としてしまうんですか・・・。」

頭にシャンプー付けて洗いながら、声を掛けてきた方を振り返って驚いた。今朝、船着場で助けてもらった気になるお爺ちゃんだ。

瞬間だったがしっかり“ちんぽ”と金玉を見てから上の方に顔をやる。それは普通サイズながらも艶のある赤黒い亀頭をし、ぶら下がった金玉も大きくコリコリした玉を確認した。

(ああ、お爺ちゃんの“ちんぽ”だ、咥えてみたい・・・)

「うん、強制終了するんだ。」

「それは冷たいですね。仕事で遅くなる人もいることでしょうに。あ、それはそうと今朝ほどはお世話になりました。改めて有難うございました。」

「なんだ、あんただったのか。あっはははっ、あんなドジな客がたまに居るんだ。」

「え、面と向かって“ドジ”って言われたの初めてですよ。お爺ちゃん感謝していますが、口が悪いですね。」

「うん、よく言われる。その代わり顔が良いんだ、あっはははっ。」

「たしかに顔は良いですね。それに心も良いでしょう。でも、そんなこと自分から言う人はあまりいませんよ。」

「そうだろうな、ではごゆっくり。先に失礼する。あっはははっ。」

「あ、もう上がるんですか。折角だから背中でも流させてもらいたかったのですが。」

「あのな、さっきも言ったが、もたもたしていると電気消されるぞ。」

「そうでしたね。明日からは、もう少し早めに来るように心がけします。なんせ、様子が分からなかったものですから・・・。」

新平が話し終えないうちに、お爺ちゃんは脱衣場に行ってしまった。

(おいおい、人の話は最後まで聞いてくれよ・・・)

折角会えたのに、さっさと帰っていくお爺ちゃんの背中を恨めしそうに見送った。

番台風のところで、県職員の作業服きた男に、遅くなったのを詫び、礼を言って外に出た。

道路には、剥がれたアスファルトもそのままだし、まだ外灯などの整備が遅れていて、雲間に見え隠れする月明かりだけの道を歩き始める。

公設浴場を出て二・三分歩いたところで電柱の影に人影らしいのが見えた。

(立ちしょうべんでもしているのだろうか・・・、どんな“ちんぽ”掴んでいるんだろ・・・)

横目で見ながら通り過ぎたが、暗い場所だったのではっきり見えなかった。でも、その人影は小便している様子ではない。

(こんな時間に誰かを待っているのだろうか・・・、怪しい行動だ・・・)

そんなことを思いながら、なんとなく気になって通り過ぎたが立ち止まり振り返って見た。

「おい、もう帰って寝るのか。」

暗がりから出て来て声を掛けられ、足が竦んでしまった新平だったが、なんとなく聞き覚えがある声にも思えた。

「あ、さっきのお爺ちゃんですか。」

「そうだ、待っていたんだ。」

声を掛けてきた人影は、風呂場で声を掛けてくれた、新平が気になっていた波止場のお爺ちゃんだった。

嬉しくて、飛び掛って行きたいのを我慢し、つとめて平常心で答える。

「ああ、吃驚した。強盗かと思いましたよ。待っていてくれたって私をですか・・・、嬉しいなぁ。」

「そうだ、他に待つようなのはいないだろ。どうだ一杯飲んで行かないか。」

「良いですけど、この時間だし酒屋も開いていませんでしょう。居酒屋も地震後に島を出たままで、まだ避難施設暮らしだそうですが。」

「お、情報が早いな。でも酒を飲むだけだ、酒屋で無くっても酒はどこででものめるだろ。それに背中流してやるって言ったけど、あれは挨拶だけか。」

「あっはははっ、確かにどこででも飲めますが・・・。ああ、背中流させてくれるんですか。」

「いや、背中流すのは今度で良い。今夜は晩酌に付き合ってくれ。」

「そういうことでしたら喜んで付き合います。朝までは遠慮しますが。」

「あほか、そんなこと誰が朝まで付き合えと言った。晩酌するだけだと言ったろ。」

「あはははっ、そうでしたね。」

暗い舗装されていないゴロゴロ石がむき出している坂道を上り始めた。

「遠いのですか・・・、あ、ああ。」

暗がりでもあり道が良く見えないため、危うくひっくり返るところだった。

「おいおい、用心してくれよ。まだ道路面が剥がれてて補修されていないんだから。ほれ、手を握れ・・・。」

お爺ちゃんに手を掴まれて歩き出す。握り合った掌が“じっとり”濡れ、互いの掌がヌルヌルする。

当然、下心があって、新平が手を強く握ったり、外れそうに弱く握る。其のつど、お爺ちゃんは、手が抜けないように強く握り返してくる。

なにか信号を送ってくれているように勝手に興奮してくる。

(“晩酌に付き合え”と誘われたが、それだけだろうか。なにか心が騒ぐ、期待できそうな気もするが、何せ初対面だ・・・)

「先の崩れた石垣の上の玄関に明かりが点いているだろ、あそこだ。」

お爺ちゃんは、新平の手を掴んだまま急ぎ足で坂道を登りだした。

「お爺ちゃん、足が達者なんですね。お幾つですか。」

息を切らしながら、引きずられるようにお爺ちゃんの後ろをついて行く。掌は相変わらずねっとりと汗で濡れている。

「俺の歳か、73の一人暮らしだ。」

「あ、若く見えますね。申し遅れましたが、上野新平53です。」

「おお、そんなおじちゃんだったか、あっはっはっはっ。40代後半だとは見ていたがな。」

地震で崩れた石段を登り、お爺ちゃんの家に到着したが、玄関には鍵が掛けて無かったようで、お爺ちゃんが引き戸を開け、新平を先に入れて、あとから入ってきた。

(ここで振り返ってキスしにいったら怒るだろうか・・・)

「無用心ですね、鍵は掛けていなかったでしょう。」

「あっはははっ。何も取られるものが無いからな・・・。」

お爺ちゃんは大笑いして居間に上がり新平を食卓の椅子に座らせ、冷蔵庫からビールを出してきた。

何かが始まりそうな期待感があるが、あまりにも新平が思った通りに事が進んでいく、怖い気もする。

(これは、ワナかもしれない、でも誰が何の為に・・・、ま、ワナなら騙されてやろう・・・)

新平は、腰を据え、開き直った気持ちでお爺ちゃんと乾杯をする。

ニコニコ微笑んで、缶ビールで乾杯し、一気に飲んでいる不思議なお爺ちゃんだ。

「お爺ちゃん、向かい合わせだと見合いしているようで・・・、そっちに座って良いですか。」

新平は、返事も聞かずに、缶ビールを片手に、お爺ちゃんの横の椅子に座りに行く。

「おお、そうだな、こっちに・・・。あ、もう座ったのか。立ったついでにお代わりのビール取ってきてもらいたかったのに・・・。」

「ああ、良いですよ。」

新平は、冷蔵庫の前に行きビールを取り出す。

「お爺ちゃん、焼酎は無いのですか。」

「厚かましい客だな。あっはっはっ、遠慮されるより話が分かってくれて嬉しいな。どれ焼酎はな・・・。」

お爺ちゃんは、流し台の下から大事そうに焼酎の一升瓶を取り出し、新平に氷と水を準備させる。

お爺ちゃんは、晩御飯がまだだったらしく途中から弁当を開いて食べ始めた。

「そうだ、新平君だったな。俺の名前言っていなかった。早良剛(さわら・つよし)だ。可愛い名前だろ。」

「良い名前ですよ。新平より良いです。」

「あはははっ、新平の方が良いだろ。俺・・・、う、酔っ払ったかな。腹減っていたからな・・・。」

「酔っ払って良いじゃないですか、あとは寝るだけでしょう。」

「ま、そうだがな、今夜は楽しかった。やっぱり、酒は一人で飲んでもうまくないからな。あっはははっ。」

豪快に笑い、ご飯をたべながら、それでも焼酎の水割りをお代わりしてくる。

お爺ちゃんの傍に座り、あわよくば身体に触ってみたかったが酔いが回りだすとかえって触りずらい。

新平の“あわよくば・・・”は、午後十一時を過ぎ帰るまで叶わなかった。

「もう帰るのか、もう少し付き合え。」

立ち上がった新平を懇願するような目で見られ、心残りではあったが、今夜はきっかけを作ってもらっただけでも満足だった。ことを急いで駄目にしたくなかった。

「また明日にでも風呂で会えたらお邪魔します。今夜は色々とあって疲れましたので失礼します。ご馳走様でした。」

玄関を出て、石段を降り始めたが足元がおぼつかない。

「危ないなぁ、大丈夫か。」

玄関の外まで出て新平を見送っていたお爺ちゃんが、残り二・三段のところで尻餅をついたのを見て駆け下りてきた。

「ああ、酔っ払ったようで・・・。」

お爺ちゃんが手を貸してくれたのを幸いに、立ち上がりざまに抱きついていった。

「お、おお、おい・・・。」

新平に抱きつかれ、慌てたお爺ちゃんだったが、向き合ったまま見つめあってきた。

新平が、顔を近づけていくと、お爺ちゃんは目を瞑っている。“神が与えたチャンスだ・・・”

新平の舌先が、お爺ちゃんの唇を舐めに行くと、お爺ちゃんの回した腕が力強く締め付けてきた。

それは、雲に月が隠れ、全くの暗闇になった石段の途中で長いキッスの始まりでもあった。

(つづく)

ーーーーー
お断り:小説の中に登場する人名、地名、企業名はすべてフィクションであり、故意的なものではありません。(源次郎)

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・「上野新平シリーズ(第90話):S市のお爺ちゃん達(10:完)」に戻る。

・「上野新平シリーズ(第92話):玄界灘のお爺ちゃん(2)」:乞うご期待

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