上野新平シリーズ(第103話):コンビニに来るお爺ちゃん(3)By源次郎


(5)

“ねぇ、あなた。あなたの人生は、あなただけの人生なのよ。もっと自分に正直に生きなさいよ。一回きりの現世での人生なのよ”

“あぁ、判っているよ。俺の人生は、俺だけの人生だもんな。人に迷惑かけないなら生きたいように生きていけばいいんだよな。”

“そうよ、生きたいようにね。私も、私だけの人生を生きてきたわ。ちょっとだけ後悔もしたけど楽しかったわ。あなた、有難う”

“おい、お前どうしたんだ、どうしてココに居るんだ”

別府老人は、十二年前に死別した妻にベットの傍らに来て話しかけられ、ついつい生前の妻との日常会話をしているのに気付き、夢だったと気付き慌てて飛び起きた。

それは、妻の十三回忌をお寺で執り行ってもらう日の朝だった。

別府は、普通に恋愛結婚し、身体が弱かった妻だったが三人の子供を産んでくれ、それなりに教育をさせ一人前に育て社会に送り出した。

その妻も、末の娘が成人式を迎えた年に逝ってしまった。

生前、妻にはバレていないと思っていたが、妻との夫婦生活を送りながらも、若い頃からの“男色”との二人三脚であった。

結婚した当初は、週に四・五回程度のセックスだったが、すぐに長男を妊娠して数ヶ月の間、妻とは肌を合わせるのを拒まれてしまい独身時代に覚えた男との関係を復活させてしまった。

後で考えて見ると、妻の妊娠は言い訳で、密かに男との関係を心の隅で願っていたのが正直なところであった。

妻が倒れた日も、別府は当時知り合った65歳のおじいちゃんと夕方からホテルで肌を合わせ、激しい絡みの後居酒屋で腹ごしらえし、その後、数件のスナックを回り帰宅して妻が台所で倒れているのを発見したのだった。

救急車を呼び、すぐに手当てをしてもらったが、その甲斐もなく二日後に逝ってしまった。

幸いにも三人の子供たちも、意識が無いままの母親に会わせる事が出来たが、別府には自分が妻の体調が悪くなっていたのを気付かなかったことに酷く後悔した。

それ以来、別府はざんげの気持ちで、“男色”の生活から足を洗うことを妻の遺影の前で誓っていた。

お寺での妻の十三回忌を終え、自宅マンション近くのひとつ前の地下鉄駅で電車を降りてしまった。

何かを考えていたのだろうが、そこからだと三十分も歩かなければならなかった。

普段は車でばかりの移動だから、たまには変化が激しい近隣の町並を見て歩くのもいいだろうと自宅方向を目指して歩き出していた。

月に一度の命日の参拝日は、お寺には、いつも車で行っていたが、その日は住職に言われ軽く般若湯をごちそうになる予定だったので電車で出掛けていた。

昼間でもあったので少しの酒だったが結構酔いが回って顔が赤くなっていて、降りる駅を間違ってしまった。

歩道に駐車させたバイクや行き交う人をかわしながら歩いていて、ふっとコンビニの中に目をやった。

瞬間、身体が硬直するような感じで足が止まってしまった。どうしてだったかは判らなかったが、目にとまったレジーに立つ溌剌とした中年の男から発するオーラーみたいなものを受け、その男に引き込まれる感じで立ち竦んでしまった。

ふらふらと夢遊病のように自動ドアーの前に立ち、吸い込まれるように店内に入ってしまっていた。

目的も無く入ってしまったため、別府は何を買ってよいのか、また何も買わずに店内をぶらついていいものか迷っていた。

「有難うございます。いらっしゃいませ。」

レジーにいた中年の男は、カウンター前に買物客が乗せたカゴの商品のバーコードを読み取りながら、入り口に立った別府のほうを見てニッコリ微笑み、声を掛けてきた。

その男のオーラーに眩暈さえ覚え、慌てた別府は、軽く会釈し、そそくさと商品陳列棚に隠れ、ちらちらと気になるレジーの中年の男を観察していた。

その中年の男こそが、今自分のケツを掘っている上野新平だったのだ。

あの日の朝、妻が夢の中に現れ“あなたの人生は・・・・・”と言ってくれたのは、この上野新平との出逢いを知らせてくれたものだったのか。

それに、妻が亡くなってから封じ込めていた“男色の道”の宝の袋の糸を切ってくれた気もしていた。

“あなたの人生を・・・”

夢に出てきてくれた妻の声が、あまりにもタイミングよく、別府の心を目覚めさせてくれ、その上、こうした出逢いをプレゼントしてくれたとの思いでもあった。

ひとつ手前の駅で間違って下車してしまったのも、単なる偶然だろうか。妻が引き合わせたような気もしていた。

久し振りの“ときめき”に、別府は、何時までもこの男の顔を見ていたかったが、不審者扱いされると、二度と会えなくなってしまう。

そうなると、折角一目惚れした“ときめき”も水の泡になってしまう恐れがある。

別府は、商品陳列台の手前に並べてあった、新聞と週刊誌を手にとってレジーに行って精算してもらうことにした。

その日から連日コンビに通いをすることになったのだが、その中年の男の勤務時間が一定していないらしく、会えたりあえなかったりが続いた。

それで一週間ほどあとのあの日、あらかじめ準備していたメモ紙をしのばせ、堪らず電話番号を書いたメモを渡し、今夜にこぎつけたのだが、居酒屋での別府の行動は、自分でも驚くほど雄弁で積極的だった。

このチャンスを逃すと、こんなにも心をときめかしてくれる男には会えないだろうと懸命だった。

しかし、自分が“男色”であることを伝えることが、じれったいほど出来ない自分に落胆もし、半ば諦めかけていた。

また、上野新平と名乗る男が、男同士肌を合わせることに対して、どこまで理解してくれるかも判らなかった。

話は何となく途切れがちではあったが、そこそこ合わせて楽しく酔うことが出来ただけでも嬉しかった。

「お爺ちゃん、どうしましたか。また眠ってしまったってことは無いですよね。大丈夫ですか、お爺ちゃん。」

ゆっくり、ゆっくり、別府老人のアナルに太い竿を抽送していた新平は、小さい声でうめくような鳴くような喘ぎ声が続いていた別府老人が、ふっと静かになってしまい心配になって来た。

「ああ、新平。大丈夫だよ、すっごく気持ちが良くってな、あ、ああ、ウケってこんなものだったのかと今感慨無量で物思いにふけってしまっていたんだ。」

「何だ、そうだったのですか。お爺ちゃんは、本当に初めてウケたのですね。それにしては、大して痛みも少なく気持ちが良くなったって良かったですね」

「ああ、そうだ。今まで何度かウケをさせられそうになったことは有ったんだが、どうしても勇気が無く拒否していたんだ。あっはははっ。」

「それにしても、元気なお爺ちゃんですね。まだまだ充分タチでいける体力がありますからね。」

「それはどうかな・・・、でもな、久し振りだったから勝手が判らずと惑っていたんだ。なんせ、十二年ぶりだからなぁ。」

「あはははっ、そのようには見えませんでしたよ。ちょっと憎ったらしいくらい元気なお爺ちゃんだと感心していましたからね。」

「それは、どうでも良いだろ。それよりケツを上げているのが疲れたから、正上位に変えてくれないか。」

「ああ、そうしましょうね。そろそろラストスパートを掛けたい頃でしたからね。」

新平は、別府老人の背中に覆い被さり、太竿を突き刺したまま横向きににし、先程お爺ちゃんがしていた要領で身体を膝のしたからかわし正上位になって胸のうえに身体を預けていった。

「お、おお、上手いもんだな、あ、ああ、あうあう…。」

新平は、唇を合わせにいこうとして、目の前に大豆くらいに黒くコロンと膨らんだ乳首を見て、甘く噛んだ後チロチロ舐めてみた。

「あっひぃー、なになに、あ、ああ、新平。何をしたんだ、あ、ああ、そ、そこは、あ、ああ、止めてくれ、お、おう、嫌だ、嫌だ、くすぐったくって、あ、ああ、いやぁーん、おっほほほ…。」

別府老人は、背中を反らし悶え始める。

「お爺ちゃん、ここがそんなに感じるのですか。ほれほれ…。」

「あ、あぁーん、いや、いや、そ、そこはな、あ、ああ、昔っから、あ、ああ、止めて、ななな、あ、ああ、死ぬ、あ、ああ、死ぬぞ、お、おい、新平、あ、ああ、止めて…、あ、ああ、気持ち良い、お、おうおう、あぁーん・・・・・、ふっふぅーん。」

面白いほど悶え狂ったおじいちゃんに、新平の太竿がアナルの中でグングン膨張していく。

自分の射精したい気持ちを忘れてしまい、お爺ちゃんの両乳首を攻め立てていく。

「な、なな、新平。まだ射かないのか。あ、ああ。」

仰向けになっている別府老人は、新平の顔を両手で挟んで、乳首を攻め立てているのを止めさせ、眉を“ハの字”にし、苦悩に満ちた顔で聞いてくる。

「うん、今ね、寸止目状態で苦しいんです。ちょっと擦ったらすぐにでも爆発します。」

「なんだ、私に構わず射きなさい。そんなこと遠慮しなくって良いんだぞ。」

「はい、判っていますが、お爺ちゃんが予想以上に悶えるので面白くって…、あ、ああ、駄目、駄目だよ、あ、ああ、い、いい、射きます、あ、ああ。」

別府老人は、下から腰を上下させ、新平が善がりだしたのをニコニコ笑いながら、なおも続けてくる。

「新平。ちょっと待ってくれ。足を私の膝の下に入れて両手を貸してくれ。」

「え、どうしましたか・・・。」

別府老人に言われるまま足を膝の下に潜らせ両手を差し出すと、おじいちゃんは、その手を掴んで起き上がりざまに新平を仰向けに倒し、その反動を利用して起き上がり、新平の股間に跨いで座った。

「わ、騎乗位ですか・・・。」

別府老人は、和風便器に座ってリキム形で腰を上下させ始めた。要するに“うんこ座り”だ。

スクワットなどで、膝も鍛えているようで、尻を新平の腹に乗せ掛けることもなく、軽々と尻を上下させ、苦悶する新平の顔を見てニコニコ嬉しそうにしている。
「あ、ああ、い、いい、い、射っくぅー、あがぁ、あがぁ…。」

新平は、我慢の限界が来てしまい、自分も太竿の抽送をパコパコと下から上下させるのを早め、思いっきり別府老人の直腸の中で爆発させてしまった。

「ほっほほほ、新平が射くときの顔もかわいいなぁ。どうだ良かったか。」

「はぁはぁ、ふはふはぁ、うん、最高だったよ。でも趣味が悪いなぁ。そんなに顔を見つめないでよ。」

新平は、別府老人の直腸に“ちんぽ”を挿入したままで、ひとしきり股間の痺れるような快感を身体を震わせながら過ぎ去るのを待った。

やがて、いきり勃っていた“ちんぽ”が、じわじわと萎んでいき、お爺ちゃんの菊門からルルズルと抜け出てしまった。

そのあと、別府老人が、腹の上に倒れこんで覆い被さって来たのを抱き締め、唇を吸いに行く。

互いに絡ませた舌をしゃぶり合い快楽の余韻をひとしきり味合い、長い毛の絨毯に仰向けで寝っころがり、また思い出したように抱き合って舌を絡み合わせる。

「お爺ちゃん。」

「何だ新平。もうひと勝負いくか。」

「そ、そんな・・・、今度はお爺ちゃんが射く番ですよ。」

「あっはははっ、そんな気は使わなくってもいいんだ。お爺ちゃんは疲れたから時間を空けてから挑戦だよ。」

「そう、じゃあゆっくり休んでいてね。シャワー浴びて来るから。」

「ちょ、ちょっと待て。それは犯罪だ。私を抱っこして風呂に入れてくれ。」

「うっわあ、でっかい甘えん坊だなぁ。」

そう言って、立ち上がりざまに“ピシャッ”と、おじいちゃんの尻たぶを叩いて風呂場に向かう。

「げっ、痛いな・・・。この年寄り苛めやろう。待ってくれ、私も・・・。」

新平の後ろから飛び掛って背中に抱き着いてくるおじいちゃんを、負ぶって浴室に入っていく。

浴槽では、先程浸かっていたので浴槽に入るつもりが無かった新平だったが、先に入った別府老人がまたしても両手を広げて催促してくる。

「また浸かるんですか、身体がフヤケますよ。」

「いいじゃないか、な、なな、キスするだけだから。」

なんともあきれたお爺ちゃんに、この先何を要求されるのか、振り回される夜が待っていそうだった。

(6)

強い日差しがコンビニの入り口側から差し込んでいる。そろそろ昼食を兼ねた休憩時間が来る。

新平は、入り口側のウインドウにブラインドを下げてから交代の店員に断って近くの公園に散歩を兼ね、昼食の弁当を下げて出掛けるつもりでいた。

(あれあれ、あのお爺ちゃんが、またゴミ箱あさりにきている・・・)

コンビニ入り口横にある数台が乗り入れられる駐車場にあるゴミ箱を覗き込んでいるホームレスのお爺ちゃんが見えた。

そこには、数時間前に捨てた賞味時間が過ぎた弁当の中身だけをビニール袋に入れて捨ててあるのだが、それを拾いに来ているようだ。

あんなの食べてお腹でも壊さないのだろうか・・・。どんな過去があるのか判らないけど、散髪して顔髭でも剃ってやったら、そこいらでえらそうにしている会社の役員しているひとより立派な紳士に変貌するのではないだろうか。

新平は、何気なくそう思いながら、商品陳列棚から弁当を二個取り出し、仲間のバイトではいっている大学生に精算させてコンビニの裏口から出てきた。

駐車場を横切って通りに出ると、先程のホームレスの男が、腰にタオルを下げ、拾って来た弁当を大事そうに胸に抱き、数メートル先を歩いている。

男は、歩道の横に所々に設置されている自動販売機の返却口に手を入れたり、販売機の底を覗き込みながら歩いている。

何台目かの自動販売機の下側を覗き込んだあと、歩道に腹ばいになり、腕を突っ込んでゴソゴソさせている。

立ち上がる時服についた砂ゴミを払いながら、拾ったと思われる小銭をポケットに入れたようだ。

金額はわからなかったが、瞬間ニンマリ笑った顔がかわいらしく輝いていた。

新平もホットした感じで、“良かったね、おめでとう”と心のそこで拍手を送っていた。

「オジサン、ちょっとお話したいのですが。」

新平は、声を掛けてからタイミングが悪かったかもしれなかったと反省したが、もともと追いかけて弁当を食べさせたかったので、どっちみち同じ事だっただろう。

ホームレスの男は、吃驚した顔で新平を見てくる。逆光線だったが、以前にもコンビニの中から何度か見ていたので間違いなかった。

男は、真っ赤な顔をし直立不動の姿勢で新平の顔をしみじみと見てくる

その男の耳たぶの裏側からが陽があたり、毛細血管までが透けて見えている。特に汚れた風でもなさそうだし、独特の臭いもしなかった。

「俺、悪いことしていないが・・・。」

小学生が大人にとがめられているようだった。新平は思わず笑い出しそうになるのをこらえて男に近づき公園に誘った。

男は、一瞬警戒するような態度であったが、ニコニコ微笑んでいる新平の顔を見て、怒られるのではないと判ったようだ。

公園までは、そこから数十メートルだったが、二回ほど後ろを振り返ってついてくる男を確認し微笑みかけながら歩いた。

男も、そのたびに俯いて歩いていたが顔を合わせて来る。

それだけで、二人のコミュニケーションがとれたようであった。

新平がコンビニの店員だとも知っていることもあったためか、公園に入ってからは二三歩後ろをくっ付いてきていた。

向かい合ったベンチを薦め、腰を降ろさせ、持参してきた弁当と茶が入ったボトルをひとつづつ握らせ、新平もベンチに座る。

「オジサン、さっきの自販機の下には、幾ら落ちていたの。」

咎めたわけではなかったが、弁当を握らされたためか、ポケットに手を突っ込んで、500円玉と十円玉を取り出し、掌に載せオズオズと新平の顔を見てくる。

「わぁ、510円も落ちていたんだ、儲かったね。おめでとう。あっはははっ。良かった良かった。さあ、その弁当食べていいよ、その代わりコンビニで拾った弁当は少し古くなっているから捨ててくれないかな。

腐っているから”と言いたかったが、あまりにも生々しい表現だと思い言葉を変えてお願いした。

男は、拾ったお金のことで“おめでとう”と言われ、巻き上げられるのではないと判り、ホッとしたが、拾って来た弁当を捨てて、わざわざ新しい弁当を渡され、それを変わりに食べろと言われ、理解に苦慮し、何となく納得出来なかった。

「兄さん、俺はこじきじゃないんだ。」

ぶっきらぼうだったが、しっかり新平の顔を見て言ったあと、じっと探るような目で新平の目を見つめて来る。

クリクリさせた真っ黒い瞳が光って見える。それに太い眉が、“お爺ちゃん”そのものだ。坊主頭だが、ちょっと白いものが混じった頭髪が伸びている。

「オジサン、誤解しないでね。そんなことは思っていないよ。こうして向かい合って話しているんだから、すでに私たちは友達でしょう。」

新平も真剣な目つきだが、ニッコリ笑って男の顔を見る。

「友達? 俺たちが・・・。友達なのか。」

“友達”と云われた男は、全てを納得したわけではないだろうが、見つめていた顔つきが和らいだようだ。

「そうだよ、私たちは友達になったんだよ。心配しないで早いところ弁当食べてしまおうよ。休憩時間もそんなにないから・・・。そうだ、明日も勤務時間が今日と同じだから、明日もここで会うことを約束しようよ、いいね。」

新平は、言い終わると、弁当の蓋を取って食べ始めた。

「兄さん、これ買って来たんだろ。どうして、そんなに親切にしてくれるんだ。俺ホームレスだぞ。」

「だから、どうだって言うんだよ。時間が無いから先に食べるけど、明日も弁当もってくるから、ここで待っていてね。約束だよ。」

一方的に新平が“約束”した形になったが、明日も、このホームレスの男が来るかどうかは判らない。

新平は、どうしてこの男に弁当まで買ってきたのだろうかと、自分でも不思議だった。何も好き好んで関わることも無かっただろうにと自分の行動に疑問を持ったが、“やってしまったんだから・・・”と苦笑いしながら弁当を食べた。

「電子レンジで、暖めた方がよかったかなぁ。私は、おかずのしきりに使っているビニールのバランがぬくもると、あの臭いが好きでないのでチーンしないんです。」

新平は、誰に言うでもなく独り言を喋りながら食べ終わり、弁当に蓋をかぶせ、輪ゴムでパチンと留め、持参してきたビニール袋に入れ、ホームレスの男を見てニッコリ笑い、立ち上がり尻の砂埃をはたき「じゃぁ、明日きっとだよ。」と言い残しベンチから離れて公園の出口に向かった。

新平が公園から出ようとするところで、黙り込んで新平が弁当を美味そうに食べている姿を見ていた男が背後から声を掛けてきた。

「兄さん、有難う。友達なんだな。明日ここにきっと来る。」

新平は、振り返って男の顔を見てニッコリ微笑み無言で頷いて分かれた。

新平の姿が見えなくなると、男は、弁当の蓋を取り、割り箸を割って、弁当の中身を確認することなく、一気に口にほうばっていった。

新平の姿が公園のベンチから見えなくなったとき、公園入り口から離れた植え込みの木の陰から白髪の老人が身体を横にして植え込みから出てきた。

白髪の老人は、今まで新平が座って弁当を食べていたベンチにどっかり座り込み、ホームレスの男が弁当を食べているのを見てきた。

ホームレスの男は、自分の前のベンチに座り込んだ人影には目もくれず、白いご飯を口一杯ほうばりガツガツと無我夢中で食べ続けていた。

ご飯が喉に詰まったのか、脇においていた茶のボトルの栓を開け、それを飲み始め、前に座っている白髪の老人と顔を合わせた。

ホームレスの男が落ち着きを見せたのを見計らって、白髪の老人が声を掛けてきた。

「キミは、さっきのコンビニの店員を知っているのか。」

ホームレスの男は、目の前の男の言葉を無視し、視線を外し、再び食事に取り掛かった。

「なぁ、教えてくれ。知り合いだったのか。あれは、上野って言うんだが、どうして一緒にココに来て食事していたんだ。」

しつっこくコンビニの店員との関係を聞いてくる白髪の老人の顔を見て“こいつは何者だろう?”とじっと、食事の手を休め、睨み付けるように、正面の白髪の紳士の顔を見た。

「店から、ずっと一緒に歩いて来ていたんだろ。知り合いじゃないのか。」

ホームレスの男は、無言で顔を横に振って、再び弁当に目を落とし食べ始める。

「そうか・・・、知り合いじゃなかったのか・・・。でも、どうして新平が弁当など下げて、君とココで飯食っていたんだ。なぁ教えてくれ。」

「あんたには関係ねぇだろ。探偵か? 俺とあいつは友達だ。」

ホームレスの男は、胡散臭そうに、前に座っている男を一瞥し、残りの弁当を“カサカサ”箸で擦りながら、一粒も残さないようにたいらげてしまった。

「友達だって・・・、ウソだろ。なぁ、本当のこと教えてくれよ。」

「ウソなんかじゃねぇ。疑うんなら追っかけて聞いて見な。あいつから友達って言って来たんだから。」

「いや、探偵ではない。怪しい者ではない。ちょっとした知り合いなんだが、二人が歩いてココに入って行ったので、ちょっと興味があって聞いてみたんだ。」

「だったら、明日も今頃ココに来てみたら判るだろ。明日も来るって約束したんだ。」

「え、明日も来るのか・・・。うん、判った、有難う。」

白髪の紳士は、半信半疑ながらも、ベンチから立ち上がり、ポケットから財布を取り出し、自分が今日聞いたことを口止めしようとしていた。

それにしても、このホームレスらしい男と上野新平が友達とはとてもではないが信じられなかった。

この白髪の紳士は、先日新平を自宅マンションに呼んで、朝まで激しく絡んだ別府大分(べっぷだいすけ・65)だった。

“また遊びにくるからね”

一週間前に、玄関を送り出す時笑顔で言ってくれた新平だが、その後、いくら待っても連絡が無く、こちらから電話して良いものかと何度も携帯電話の番号を眺めて溜息ついていた。

痺れをきらして、三日前から時間を変えてコンビニに足を運んだが、勤務時間が決まっていないといっていただけに、今日まですれ違いの毎日だった。

それで、きょうもお昼近くにコンビニ前を通りかかったら、上野新平が弁当らしいのを下げて駐車場を急ぎ足で出て行ったのを見かけ、後を追ってきたのだった。

“この方向だと、公園に向かっているんだな”と、急いで追いつこうとしていたら、いつのまにか、ホームレス風の男が後ろから付いて行きだした。

新平は、公園のベンチに座り、弁当らしいのを渡し、会話しはじめたので、植え込みの陰から様子を伺っていた。

別府が財布から、金を取り出そうとしたとき、ホームレス風の後ろの方で、幼稚園児くらいの子供の泣き声が聞こえた。それを聞いたホームレス風の男が振り向いた時、その男の項(うなじ)の中央に大豆二個くらいの黒い黒子(ほくろ)が見えた。

それを見た別府は、ガクガクと身体を震わせ、改めて男の黒子と場所を確認していた。

「あっ・・・、お、お前は・・・、朝蔵、日田朝蔵(ひだ・あさぞう)」じゃないのか。

名前を聞かれたホームレス男は、正面に向き直って別府を睨みつけた。

「何だ、俺の名前を知っているところを見ると、あんた刑事か。さっきから何か変だと思っていた。だったらその上野新平って人を付け回しても無駄だ。

犯罪起こすような人じゃないぞ。それとも、俺を捕まえた時のように、いい加減な捜査をして成績あげるために、拷問もどきの取調べをし、いい加減な調書を作り、冤罪で五年も地獄に落としやがって、おかげで、刑務所にいれられ、三ヶ月目には妻から“殺人犯との生活は出来ない、二人の子供もかわいそうだ”と離婚届を送りつけられ、その半年後に、折角建てた家屋も“生活できない”と別れさせられた女から、売り飛ばしてしまわれてしまった。

満期を終え、刑務所でて帰ってみたら、跡形も無く他人がマンション建てていやがったんだ。

子供や孫の居場所もわからないままだ。俺の人生をむちゃくちゃにしやがって。クソったれが、とっとと消えうせろ。

上野新平とか言う友達を、どうしても犯罪者にしたいなら俺を捕まえて、得意の偽装調書を書いて投獄しな。その方が、俺も飯と布団にありつけるから好都合だ。どうだ今すぐでもいいんだぞ。」

ホームレス風の男は、唾を飛ばしながら新平をかばい、自分が冤罪で前科ものにした刑事たちの批判を一気に喋ってきた。

「おい、朝蔵、落ち着け。冤罪はあとで聞いてやるから。朝蔵、忘れたか、俺だ、ダイスケだ。」

きょとんとしていた日田と呼ばれた男は、別府老人の顔をシミジミと見つめてきた。

「ダ・イ・ス・ケ?あのダイスケか・・・。」

「そうだ、あのダイスケだ。朝蔵、会いたかったんだ。元気だったか、うん、うん。」

改めて、別府大分の顔を見ていた日田朝蔵(ひだあさぞう・65)の目から涙が滲み出してきた。

それは、仲が良かった幼馴染が、五十年ぶりに再会した瞬間だった。

人目など全く気にならない、近付いていった別府は、日田をしっかり抱き締め背中を摩っていた。日田も別府の上品な香りがするヘヤーコロンの匂いを嗅ぎながら、涙が落ちないように空を見上げながら抱き締めていた。

公園の二人は、上野新平という中年の男のおかげで再会できたことを感謝しつつ公園を出て、肩を並べて歩き出した。

(つづく)

ーーーーーーーー
お断り:小説の中に登場する人名、地名、企業名はすべてフィクションであり、故意的なものではありません。(源次郎)
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